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◆2013.03.02(土)◆
最新判例―――│posted at 15:58:29

最判平25.1.29 架空請求詐欺グループ仲間割れ

平成21()995 傷害致死,殺人,死体遺棄,逮捕監禁致傷,逮捕監禁,監禁,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件 平成250129日 第三小法廷 判決 棄却

 

東京高等裁判所 平成210512

 

判示事項

  死刑の量刑が維持された事例(架空請求詐欺グループ仲間割れ殺人等事件)

 

主 文

  本件上告を棄却する。

 

理 由

 弁護人渡邉良平,同竹内明美の上告趣意のうち,憲法13条,31条,36条違反をいう点は,死刑制度がその執行方法を含め憲法のこれらの規定に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁,最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁,最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから,理由がなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,所論に鑑み記録を調査しても,刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

 付言すると,本件は,

 (1) 多数の者から多額の金員をだまし取るいわゆる架空請求詐欺を行う組織的団体の構成員であった被告人が,平成16年10月13日から同月16日までの間に,

   その構成員であったA,Bほか6名ないし10名と共謀の上,同じく構成員であった被害者4名を逮捕監禁又は監禁し,その際,うち1名にナイフを突き刺して傷害を負わせ,

   A,Bほか7名と共謀の上,うち1名に対し,こもごも殴る蹴るなどした上,熱湯を掛けるなどの暴行を加えて熱傷性ショック等により死亡させ,

   A,Bほか2名と共謀の上,同様に暴行を受けて衰弱していた他の1名に対し,粘着テープを口元や胸部等に巻き付けるなどの暴行を加えて呼吸不全により死亡させ,

   上記③の4名と共謀の上,残った2名を,それぞれその鼻口部を塞ぐなどして窒息死させて殺害し,

   A,Bほかと共謀の上,被害者4名の死体を土中に遺棄したという傷害致死,殺人,死体遺棄,逮捕監禁致傷,逮捕監禁,監禁,及び

 (2) 平成16年10月から同年11月までの間の組織的詐欺からなる事案である。

 上記のうち重大な事犯である(1)の犯行についてみると,被告人らは,被害者らが中国人マフィアに被告人らを襲撃させて多額の現金を強奪する計画を立てていると聞いて,被害者らからその計画の内容を聞き出すとともに,制裁を加えるために監禁及び暴行に及んだものである。そして,監禁した被害者4名の処置に困り,被害者らによる報復等を恐れた結果,被害者らを殺害するほかないと話し合い,殺害の実行を暴力団関係者に依頼する交渉をしていた間に,殺害行為に及ぶ前の暴行によって被害者2名を死亡させ,その交渉が失敗に終わったことから,残りの被害者2名の殺害に及んだものである。このような犯行に至る経緯及び動機に酌量すべき事情は認められない。暴行は激しく執ようであった上,殺害行為の態様は,寝袋に入れられ粘着テープにより何重にも緊縛されて身動きの取れない被害者2名の鼻口部を塞ぐなどして窒息死させたもので,冷酷で非情というほかない。死体遺棄は,犯跡を隠蔽するために,暴力団関係者に依頼して高額の報酬を支払い,被害者4名の死体を無造作に土中深くに埋めたものであって,死者に対する畏敬の念のおよそ感じられない犯行である。4名の命が失われた結果は甚だ重大で,遺族らの処罰感情は厳しい。被告人は,一貫して謀議の中核であり,主導的かつ中心的立場で犯行に及び,上記(1)①において自らも暴行を加え,上記(1)②の被害者の死亡後,AのBらに対する殺害実行の指示を容認し,暴力団関係者への殺害依頼の交渉が決裂した旨の連絡を受けて自らもBに対し殺害実行を指示するなどし,死体遺棄についても暴力団関係者に対する高額の報酬を用意しており,被告人が本件において果たした役割は大きい。被告人は,殺人への関与を否認するなど,真摯な反省の態度はうかがえず,更生の可能性に乏しい。

 以上のような諸事情に照らすと,被告人の刑事責任は誠に重いというほかなく,殺人や組織的詐欺について共謀を争うほかは事実を認めていることや,実母や実姉が被告人の更生に尽力する旨を述べていることなどの被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人の刑事責任は極めて重大であり,被告人を死刑に処した第1審判決を維持した原判断は,当裁判所もこれを是認せざるを得ない。

 よって,刑訴法414条,396条,181条1 項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 検察官北岡英男,同石原誠二 公判出席

(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 田原睦夫 裁判官 大谷剛彦 裁判官寺田逸郎 裁判官 大橋正春)

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◆2013.03.02(土)◆
最新判例―――│posted at 15:50:36

最決平25.2.26

平成22()1632 詐欺被告事件 平成250226日 第三小法廷 決定 棄却

 

東京高等裁判所 平成21()1856 成220804

 

裁判要旨

 公判調書中の被告人供述調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない電子メールが独立の証拠又は被告人の供述の一部にならないとされた事例

 

主 文

  本件各上告を棄却する。

 

理 由

 被告人熊本徳夫の弁護人野村創,同清水夏子,同片野田志朗の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人坂上好治の弁護人宮村啓太ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,被告人坂上の弁護人らの所論に鑑み,公判調書中の被告人坂上の被告人供述調書の末尾に添付された書面を事実認定の用に供したことの適否について職権で判断する。

記録によれば,本件の審理経過について,次の事実が認められる。

 第1審第10回公判期日において,被告人坂上の被告人質問が行われ,その際,検察官は,被告人坂上が送信した平成17年10月30日付け電子メールのうち,同メールにより転送されたオリジナルメッセージ(同年9月21日にBが被告人坂上に宛てて送信した電子メール)部分(以下「本件電子メール」という。)を被告人坂上に示して質問した。

 本件電子メールは,第1審第10回公判調書中の被告人坂上の被告人供述調書の末尾に添付されたが,これとは別に証拠として取り調べられてはいない。

 第1審判決は,本件電子メールの存在及び記載内容を被告人坂上の詐欺の故意や共犯者との間の共謀の認定の用に供した。

 

原判決は,上記第1審判決が本件電子メールを事実認定の用に供したことについて,本件電子メールは証拠物と同視できる客観的証拠であること,それを示された被告人坂上がその同一性や真正な成立を確認していること,本件電子メールを被告人坂上に示すに当たり刑訴規則199条の10第2項の要請が満たされていたことを根拠として,本件電子メールは被告人坂上の供述と一体になったとみることができるとし,訴訟手続の法令違反はないとした。

 

しかしながら,上記原判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 本件電子メールは,刑訴規則199条の10第1項及び199条の11第1項に基づいて被告人坂上に示され,その後,同規則49条に基づいて公判調書中の被告人供述調書に添付されたものと解されるが,このような公判調書への書面の添付は,証拠の取調べとして行われるものではなく,これと同視することはできない。したがって,公判調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない書面は,それが証拠能力を有するか否か,それを証人又は被告人に対して示して尋問又は質問をした手続が適法か否か,示された書面につき証人又は被告人がその同一性や真正な成立を確認したか否か,添付につき当事者から異議があったか否かにかかわらず,添付されたことをもって独立の証拠となり,あるいは当然に証言又は供述の一部となるものではないと解するのが相当である。

 (2) 本件電子メールについては,原判決が指摘するとおり,その存在及び記載が記載内容の真実性と離れて証拠価値を有するものであること,被告人坂上に対してこれを示して質問をした手続に違法はないこと,被告人坂上が本件電子メールの同一性や真正な成立を確認したことは認められるが,これらのことから証拠として取り調べられていない本件電子メールが独立の証拠となり,あるいは被告人坂上の供述の一部となるものではないというべきである。本件電子メールは,被告人坂上の供述に引用された限度においてその内容が供述の一部となるにとどまる(最高裁平成21年(あ)第1125号同23年9月14日第一小法廷決定・刑集65巻6号949頁参照)

 したがって,上記の理由により本件電子メールが被告人坂上の供述と一体となったとして,これを証拠として取り調べることなく事実認定の用に供することができるとした原判決には違法があるといわざるを得ない。

 

しかし,被告人坂上が本件電子メールについてした供述やその他の関係証拠によれば,被告人坂上について第1審判決判示の犯罪事実を認定することができるから,上記の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官寺田逸郎 裁判官 大橋正春)

◆2013.02.27(水)◆
最新判例―――│posted at 01:26:14

最判平25.2.26
平成
23()1644 道路通行権確認等請求事件 平成250226日 第三小法廷 判決 破棄差戻し

 

名古屋高等裁判所 平成22()1094 平成230519

 

裁判要旨

通行地役権者が承役地の担保不動産競売による買受人に対し地役権設定登記のされていない通行地役権を主張することができる場合

 

主 文

  原判決中被上告人らに関する部分を破棄する。

  前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

 

理 由

 上告代理人串田正克ほかの上告受理申立て理由について

本件は,被上告人らが,上告人に対し,被上告人らがそれぞれ所有し,又は賃借する土地を要役地とし,上告人が所有する土地を承役地とする通行地役権又は土地通行権の確認等を求める事案である。

 

原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 別紙物件目録記載1ないし3の各土地は,Aが所有し,同目録記載4の土地は,同社の代表取締役であるBが所有していた(以下,同目録記載1ないし4の各土地を併せて「上告人所有地」という。)。上告人所有地の一部である第1審判決別紙物件目録(一)記載の各土地(以下「本件通路」という。)は,国道1号線の南行車線に通ずる通路の一部である。この通路は,昭和55年頃までに,被上告人X1及びAにより開設された。

 (2) 別紙物件目録記載1の土地につき,昭和56年11月2日,Cを根抵当権者とする根抵当権が設定され,同月10日,その旨の登記がされ,上告人所有地につき,平成10年9月25日,Dを根抵当権者とする根抵当権が設定され,同日,その旨の登記がされた。

 平成18年7月20日にDから根抵当権の移転を受けたEの申立てに基づいて,上告人所有地につき,担保不動産競売の開始決定がされ,平成20年4月11日,買受人である上告人が代金を納付して,上告人所有地を取得した。

 (3) A及びB(以下,同社とBを併せて「Aら」という。)は,平成19年1月頃までに,本件通路を鈴鹿市に公衆用道路として移管することを計画し,本件通路を使用する者との間で順次「私設道路通行契約書」と題する書面(以下「本件通行契約書」という。)を作成した。

 Aらは,被上告人X2との間で平成12年2月4日に,被上告人X1との間で昭和55年頃から本件通行契約書の作成時までに,被上告人X3との間で平成12年ないし平成13年頃から本件通行契約書の作成時までに,被上告人X4との間で平成元年3月29日頃から本件通行契約書の作成時までに,被上告人X5との間で平成元年頃から本件通行契約書の作成時までに,被上告人X6との間で平成13年から本件通行契約書の作成時までに,上記被上告人らがそれぞれ所有する土地を要役地とし,本件通路を承役地とする通行地役権を設定する旨合意した。また,Aらは,Fとの間で平成18年8月7日に,Fが所有する土地を要役地とし,本件通路を承役地とする通行地役権を設定する旨合意した。 その後,上記土地をFからGが取得し,同社から被上告人X7が賃借した。これらの通行地役権の設定登記はない。

 

原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人らの通行地役権等の確認請求を認容すべきものとした。

 上告人所有地の担保不動産競売による売却時に,本件通路は,外形上通路として使用されていることが明らかであり,上告人は,被上告人らが所有し,又は賃借する土地上の工場に出入りする車両等が本件通路を使用することを認識していたか又は容易に認識し得る状況にあった。そうすると,上告人が,被上告人らに対し,通行地役権の登記の欠缺を主張することは信義に反し,上告人は,被上告人らに対して地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者には当たらないから,被上告人らは,上告人に対し,通行地役権等を主張することができる。

 

しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 通行地役権の承役地が担保不動産競売により売却された場合において,最先順位の抵当権の設定時に,既に設定されている通行地役権に係る承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明らかであり,かつ,上記抵当権の抵当権者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは,特段の事情がない限り,登記がなくとも,通行地役権は上記の売却によっては消滅せず,通行地役権者は,買受人に対し,当該通行地役権を主張することができると解するのが相当である。上記の場合,抵当権者は,抵当権の設定時において,抵当権の設定を受けた土地につき要役地の所有者が通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができる上に,要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無,内容を容易に調査することができる。これらのことに照らすと,上記の場合には,特段の事情がない限り,抵当権者が通行地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することは信義に反するものであって,抵当権者は地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらず,通行地役権者は,抵当権者に対して,登記なくして通行地役権を対抗することができると解するのが相当であり(最高裁平成9年(オ)第966号同10年2月13日第二小法廷判決・民集52巻1号65頁参照),担保不動産競売により承役地が売却されたとしても,通行地役権は消滅しない。 これに対し,担保不動産競売による土地の売却時において,同土地を承役地とする通行地役権が設定されており,かつ,同土地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用され,そのことを買受人が認識していたとしても,通行地役権者が承役地の買受人に対して通行地役権を主張することができるか否かは,最先順位の抵当権の設定時の事情によって判断されるべきものであるから,担保不動産競売による土地の売却時における上記の事情から,当然に,通行地役権者が,上記の買受人に対し,通行地役権を主張することができると解することは相当ではない。

 

以上によれば,上告人所有地の担保不動産競売による売却時に,本件通路が外形上通路として使用されていることが明らかであって,被上告人らが本件通路を使用していたことを上告人が認識していたか又は容易に認識し得る状況にあったことを理由として,被上告人らが上告人に対し,通行地役権等を主張することができるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。論旨は理由があり,原判決中被上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,上告人所有地に抵当権が設定された当時の事情等について更に審理を尽くさせるため,上記の部分につき,本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官寺田逸郎 裁判官 大橋正春)

(別紙)

物 件 目 録

1 所 在 鈴鹿市石薬師町字八反縄

地 番 2997番1

地 目 雑種地

地 積 359㎡

2 所 在 鈴鹿市石薬師町字八反縄

地 番 3001番1

地 目 雑種地

地 積 1145㎡

3 所 在 鈴鹿市石薬師町字八反縄

地 番 3003番1

地 目 雑種地

地 積 860㎡

4 所 在 鈴鹿市石薬師町字八反縄

地 番 3004番1

地 目 雑種地

地 積 269㎡

◆2013.02.25(月)◆
最新判例―――│posted at 17:01:56

最決平25.2.20
平成
23()1789 住居侵入,窃盗,現住建造物等放火,窃盗未遂被告事件 平成250220日 第一小法廷 決定 棄却

 

広島高等裁判所 岡山支部 平成23()13 平成230914

 

裁判要旨

 前科に係る犯罪事実及び前科以外の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることの可否

 前科に係る犯罪事実及び前科以外の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることが許されないとされた事例

 

主 文

  本件上告を棄却する。

  当審における未決勾留日数中400日を本刑に算入する。

 

理 由

 弁護人山田基幸の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,所論に鑑み,職権で判断する。

原判決は,事実誤認の控訴趣意を排斥するに当たり,被告人の前科(昭和47年9月から同48年9月までの間の窃盗13件,同未遂1件,現住建造物等放火1件,同未遂2件等の罪により懲役6年に処せられた前科及び平成2年3月から同年12月までの間の住居侵入,窃盗10件,住居侵入,窃盗,現住建造物等放火2件,住居侵入未遂1件の罪により懲役9年に処せられた前科)に係る犯罪事実並びに被告人が自認している第1審判決判示第1ないし第9及び第19の住居侵入,窃盗の各事実等から,被告人には,

  住居侵入,窃盗の動機について,いわゆる色情盗という特殊な性癖が,

  住居侵入,窃盗の手口及び態様について,

  侵入先を決めるに当たって下見をするなど何らかの方法により女性の居住者がいるという情報を得る,

  主な目的は女性用の物を入手することにあり,それ以外の金品を盗むことは付随的な目的である,

  家人の留守中に窓ガラスを割るなどして侵入するという特徴が,

  現住建造物等放火について,女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する独特の複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりするという極めて特異な犯罪傾向がそれぞれ認められるとした。

そして,上記アないしウの特徴等が,第1審判決判示第10ないし第15,第18及び第20の住居侵入,窃盗又は同未遂,現住建造物等放火の各事実に一致するとし,このことが上記各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとなるとした。

 

しかし,上記原判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合は,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,その特徴が証明の対象である犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって,初めて証拠として採用できるところ(最高裁平成23年(あ)第670号同24年9月7日第二小法廷判決[釧路事件]・裁判所時報第1563号6頁参照),このことは,前科以外の被告人の他の犯罪事実の証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合にも同様に当てはまると解すべきである。そうすると,前科に係る犯罪事実や被告人の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることは,これらの犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,その特徴が証明対象の犯罪事実と相当程度類似していない限りは,被告人に対してこれらの犯罪事実と同種の犯罪を行う犯罪性向があるという実証的根拠に乏しい人格評価を加え,これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることに等しく,許されないというべきである。

 (2) これを本件についてみるに,原判決指摘アの色情盗という性癖はさほど特殊なものとはいえないし,同イの,あらかじめ下見をするなどして侵入先の情報を得る,女性用の物の入手を主な目的とする,留守宅に窓ガラスを割るなどして侵入するという手口及び態様も,同様にさほど特殊なものではなく,これらは,単独ではもちろん,総合しても顕著な特徴とはいえないから,犯人が被告人であることの間接事実とすることは許されないというべきである。また,原判決指摘ウの「特異な犯罪傾向」については,原判決のいう「女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりする」という行動傾向は,前科に係る犯罪事実等に照らしても曖昧なものであり,「特異な犯罪傾向」ということは困難である上,そもそも,このような犯罪性向を犯人が被告人であることの間接事実とすることは,被告人に対して実証的根拠の乏しい人格的評価を加え,これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることにほかならず(前掲最高裁平成24年9月7日判決参照),許されないというべきである。

 (3) したがって,原判決が,上記前科に係る犯罪事実並びに第1審判決判示第1ないし第9及び第19の各事実にみられる上記アないしウの特徴が第1審判決判示第10ないし第15,第18及び第20の各事実に一致することを上記各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとしたことは違法であり,原判決には法令違反がある。

 

しかしながら,上記間接事実を除外しても,その余の証拠によれば,第1審判決の各犯罪事実の認定について事実誤認はないとした原判断は是認することができるから,原判決の上記法令違反は,判決に影響を及ぼすものではない。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官金築誠志の補足意見がある。

 

 裁判官金築誠志補足意見は,次のとおりである。

 私は,原判決が,被告人の前科に係る犯罪事実並びに第1審判決判示第1ないし第9及び第19の各事実をもって,同第10ないし第15,第18及び第20の各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとしたことを違法であるとする本決定に賛成するものであるが,本決定が,前科以外の被告人の他の犯罪事実の証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合にも,法廷意見が引用する平成24年9月7日第二小法廷判決の法理が同様に当てはまるとしていることなどについて,本件事案に即してみるとき,留意すべき点があるように思うので,私見を付加しておくこととしたい。

本件起訴事実は,平成16年8月から同17年8月までの間に,岡山市内において,合計20件の住居侵入・窃盗・同未遂・現住建造物等放火の犯行に及んだというものであるが,このうち,第1審判決判示第1ないし第9及び第19の住居侵入・窃盗については,被告人も認めており,認定上特に問題はない。そこで,原判決は,被告人の認める上記各事実と,法廷意見記載の前科から,被告人の犯行の動機,手口等を認定し,第10ないし第15,第18及び第20の各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとしているのであるが,色情盗という性癖,犯行の手口・態様が,さほど特殊なものとはいえないことは,法廷意見の述べるとおりである。また,原判決は,前科等から,被告人は,「女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する独特の複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりするという極めて特異な犯罪傾向」があるとし,これも上記犯人性の間接事実としている。しかし,昭和48年の3件の現住建造物等放火では,目的とする盗みができなかったことに立腹したという上記とは全く異なる動機が認定されており,平成2年の2件の放火については,性倒錯傾向が放火の動機に幾分か関係を持つという原判示に通じる認定がされているが,同年に被告人が行った住居侵入・窃盗で女性用下着を窃取したにもかかわらず,放火に至っていないものが他に6件ある。したがって,被告人に上記のような犯罪傾向があると,軽々に断定することはできないと考える。さらに,窃取した物に女性用の物が含まれているからといって,その後に行われた放火の動機が,上記のようなものであると直ちに推認することはできないのであって(ちなみに,認めている第16及び第17の2件の放火について,被告人は,その動機を「指紋を消すため」と供述している。),第18において灯油を撒いた動機がストーカー的な気持であった旨の検察官に対する供述があるものの,争いのある本件各放火を通じて,その動機が原判示のようなものであったと認定できるだけの証拠があることはうかがわれない(放火の犯人が被告人であることが確定された場合には,その動機が原判示のようなものであるとの逆の推認をすることは可能であろうが。)。そうすると,法廷意見の指摘する点もさることながら,上記の原判断については,そもそも,動機の共通性という,犯人性の間接事実とするための前提を欠いているように思う。

(1) このように,原判断は是認できないのであるが,上記のように,原判決は,間接事実となるべき被告人の他の犯罪事実として,現住建造物等放火の含まれる事実を挙げていないところ,本件において,被告人の他の犯罪事実が犯人性を認めるための間接事実として許容できるか否かという点で,より検討を要するのは,併合審理されている現住建造物等放火の各事実についてであると思われる。すなわち,現住建造物等放火の含まれる10件の事実のうち,第16と第17については,盗品の一部について否認しているものの,放火を含め,犯人であることを認めており,第18については,盗品の一部を除き,住居侵入・窃盗の限度では認めているので,結局,被告人が,全面的に犯人ではないとして争っているのは,第10ないし第15及び第20の7件ということになるが,このうち,第15を除く6件においては,原判決が引用する第1審判決が詳細に説示するとおり,被告人方から盗品が発見されていることなどの証拠により,住居侵入・窃盗の犯人が被告人であることは明らかである。第15について,第1審判決は,同犯行は,窓の錠付近のガラスを割って屋内に侵入して物色し,その後物色した部屋の押し入れに放火するという犯行態様が,他の事件とよく類似していることに加え,窃盗に入った家で室内に放火するとの犯罪類型は決して一般的なものとはいえず,むしろ特殊な手口であることや,後記の同種前科の存在も,犯人性を認める証拠としているところ,この判断は上記第二小法廷判決の示した証拠としての許容基準からして疑問を免れないのであるが,これを除いても,第1審判決が援用する粘着テープ等の物的証拠により,被告人を第15の住居侵入・窃盗の犯人と認めることが可能というべきである。

 残る問題は,争いのある8件の放火の犯人が被告人と認められるかどうかである。第18については,窃盗の犯行後,室内に灯油を撒いたという重要な不利益事実の承認があるが,その余の7件については,同種前科及び犯行態様の類似した多数の事実が起訴されていることを別とすれば,放火の犯行と被告人とを結び付ける証拠は,ほぼ,住居侵入・窃盗の犯行との場所的同一性と時間的近接性のみといってよい。

 (2) 前科に関し,原判決が放火の動機として認定するところが間接事実となり得ないものであることについては,前記のとおりであるが,住居侵入・窃盗の際に侵入先の室内において放火を行ったという同種前科の存在自体を,本件放火の犯人が被告人であることの間接事実とすることも,上記第二小法廷判決の法理に照らし,許されないと解すべきである。前科は,被告人の人格評価を低下させ,ひいて犯人性の認定に影響を及ぼすおそれの否定できない証拠であり,同種前科であれば特にそのおそれは強い。犯行の手口,態様等に,顕著な特徴がある場合でなければ,犯人性に関する証拠として許容されるべきでなく,ただ単に,前に同じような犯罪を犯した者であるから,今回の件も犯人ではないかとの推論をすることは,許されるべきではない。窃盗犯人が犯行場所に放火するという犯罪類型は,しばしば見られるものではないとしても,特に珍しいというほどのものではないから,犯人の特定に強く結び付く程度の顕著な特徴とはいえない。

 (3) それでは,本件において併合審理された類似事実についても,同様に考えるべきであろうか。本件起訴に係る10件の現住建造物等放火は,約4か月の短期間に連続的に犯されたものであるが,いずれの犯行においても,放火が実行されたと推認される時以前,最大限約10時間の幅の時間内に,被告人が,放火された住居に侵入し,放火された室内で金品を盗みあるいは盗もうとしたという事実が認められる。このうち2件は,放火についても被告人は自認しており,上記時間の幅が10時間の1件については,室内に灯油を撒いたことを認めている。このような事実関係において,仮に,争いのある放火が,被告人の関与なしに他の者によって犯されたとするならば,それは極めて確率の低い偶然の事態が発生したことを承認することになろう。本件のような事案について,各放火事件の犯人性は,あくまで,それぞれの事件に関する証拠のみで別個独立に認定すべきであるとすることは,不自然であり,類似する多数の犯行を総合的に評価することは許されるべきであろう。

 上記10件の放火の中には,上記の時間の幅が1時間20分,2時間といった時間的近接性の極めて高い事件もあり,こうした事件については,その事実だけで被告人が放火の犯人であることを推認することに,あまり疑問はないであろう。しかし,どの程度の時間の幅まで,近接性の原理のみで犯人性を推認できるかは,微妙な問題であって,その際に,類似事実の存在は,一つの補強的な証拠になり得ると考えられる。本件のような事案においては,そうした認定の当否を審理することが必要であり,証拠として許容される場合があるのであって,それが,併合審理をする意義の一つであると考える。

 (4) もっとも,本件においては,上記のような総合的認定という観点のほかに,被告人の認めている2件の住居侵入・窃盗・現住建造物等放火を,他の8件の住居侵入・窃盗・現住建造物等放火の犯人が被告人であることの間接事実とすることができるのかという観点もある。この観点については,他の類似犯罪事実をもって被告人の犯罪傾向を認定し,これを犯人性の間接証拠とするという点で,上記第二小法廷判決が戒める人格的評価に基づく推論という要素を含んでいることは否定できない。したがって,基本的には,同判決が示した法理に従うべきであろうが,この法理が,自然的関連性のある証拠の使用を,不当な予断・偏見のおそれや合理的な根拠に乏しい認定に陥る危険を防止する見地から,政策的考慮に基づいて制限するものであることに鑑みれば,「顕著な特徴」という例外の要件について,事案により,ある程度の幅をもって考えることは,必ずしも否定されないのではないだろうか。

 上記第二小法廷の事案が,窃盗の件数は31件の多数に上るのに,放火は1件にとどまるのに対し,本件は,20件のうちの半数において放火が起訴され,しかも約4か月という短期間に多数の類似犯罪事実が連続的に犯されたというものであって,事案に重要な差異がある。また,前述のように,本件においては,被告人が上記多数の住居侵入・窃盗の犯人であることは,他の証拠によって立証されており,その犯人と放火犯人との同一性という,限局された範囲における推認であることも,考慮すべき点といえよう。さらに,併合審理される類似事実については,前科についてみられる,その存在自体で人格的評価を低下させる危険性や,同判決が指摘する争点拡散のおそれは,考え難い。これらの点を総合的に考慮すれば,本件において「顕著な特徴」という要件が満たされていると解する余地もあるのではないかと思う。

いずれにしても,本決定は,あくまで原判決における証拠の使用方法を違法と判断したものであって,上記2に述べた点についてまで判断したものではない。事案の内容から,本決定の射程距離に疑義が生じるおそれなきにしもあらずと危惧し,念のため付言する次第である。

(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志補足意見 裁判官 横田尤孝 裁判官白木 勇 裁判官 山浦善樹)

◆2013.01.25(金)◆
最新判例―――│posted at 18:27:30

最判平25.1.25

平成22(行ヒ)42 政務調査費返還命令処分取消請求事件 平成250125日 第二小法廷 判決 その他

 

東京高等裁判所 平成21(行コ)2 平成210929

 

裁判要旨

  区議会議員が提起した住民訴訟の控訴の提起に係る手数料の印紙代等に充てた政務調査費の支出が,使途基準の定める調査研究費又は他の項目に該当せず,使途基準に適合しないとされた事例

 2 区議会議員が提起した住民訴訟の証拠等にするとして情報公開請求により区長から開示を受けた録音テープの反訳費用及び当該住民訴訟の尋問期日における関係者の証言等の反訳費用に充てた政務調査費の支出が,使途基準の定める資料作成費又は広報費に該当するとみることができ,使途基準に適合しないとはいえないとされた事例

 

主 文

  原判決中,目黒区長が被上告人に対し平成19年5月1日付けでした平成17年度分の政務調査費の一部の返還を命ずる処分のうち10万7375円を超える金員の返還を命ずる部分の取消請求に係る部分を破棄する。

   前項の破棄部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

  上告人のその余の上告を棄却する。

  前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

 

理 由

 上告代理人河合由紀男ほかの上告受理申立て理由について

本件は,目黒区議会議員である被上告人が,地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下「法」という。)100条13項の規定に基づく条例である目黒区政務調査費の交付に関する条例(平成13年目黒区条例第5号。平成18年目黒区条例第62号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)の規定により平成17年度に交付を受けた政務調査費から被上告人が提起した住民訴訟に関する費用を支出したことにつき,目黒区長から,目黒区政務調査費の交付に関する条例(平成19年目黒区条例第22号による改正前のもの)14条に基づき上記支出の額に相当する金員の返還を命ずる処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件処分は違法であるとして,その取消しを求める事案である。

 

原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 法100条13項は,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができ,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は条例で定めなければならないと定めており,この法の定めを受けて,本件条例10条は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,当該政務調査費を別に定める使途基準に従って使用しなければならないと定めている。この条例の定めを受けて,目黒区政務調査費の交付に関する規程(平成13年目黒区議会告示第1号。平成18年目黒区議会告示第1号による改正前のもの。)5条及び別表により定められた政務調査費使途基準(以下「本件使途基準」という。)は,調査研究費,研修費,会議費,資料作成費,資料購入費,広報費,事務所費,事務費及び人件費の9つの項目を挙げてその内容を定めている。そして,本件使途基準は,調査研究費の内容について「会派又は議員が行う目黒区の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査…委託に要する経費」(調査委託費,交通費,宿泊費等)である旨,資料作成費の内容について「会派又は議員が議会審議に必要な資料を作成するために要する経費」(印刷・製本代,原稿料等)である旨,広報費の内容について「会派又は議員が行う議会活動及び目黒区政に関する政策等の広報活動に要する経費」(広報紙・報告書等印刷費,送料,交通費等)である旨を定めている(括弧内はいずれも例示とされている。)

 (2) 上告人は,庁舎移転に伴う本庁舎跡地等(以下「本件跡地等」という。)の売却に当たり,売却先の選定については,公募提案方式を採用して応募者が提案する本件跡地等に係る利用計画や購入希望価格等を総合的に審査した上で決定することとし,そのような審査を行う機関として,目黒区本庁舎跡地等土地利用計画審査委員会(以下「本件委員会」という。)を設置した。本件委員会は,提案に係る購入希望価格が応募者中の最高額ではなかった業者による提案の評価順位を1位とする旨を決定し,上告人は,当該業者に対し,本件跡地等を売却した。

   被上告人は,上告人が上記業者に本件跡地等を売却したことは違法であり,これにより上告人に上記提案に係る購入希望価格のうちの最高額と実際の売却価格との差額相当額の損害が生じたなどと主張して,平成15年6月18日付けで,上告人の執行機関を被告として,当時の目黒区長らに対して上記差額相当額の損害賠償請求をするよう求める住民訴訟(以下「別件住民訴訟」という。)を東京地方裁判所に提起した。

 (3) 目黒区長は,平成17年4月1日付けで,目黒区議会議員である被上告人に対して平成17年分の政務調査費を交付すること及びその交付額を決定し,その後,2回に分けて,合計204万円を交付した。

 (4) 被上告人は,目黒区議会議長に対し,平成18年4月24日,平成17年分の政務調査費について収入総額が204万円,支出総額が205万0284円,残額が0円である旨を記載した収支報告書(本件条例11条1項)を提出した。同報告書には,調査研究費の内訳として,「住民訴訟テープ反訳」として3万1775円,「住民訴訟証人尋問速記反訳」として7万5600円,「住民訴訟控訴印紙代及高裁提出用切手」として2万8350円などと記載されていた(以下,これらの支出を順に「本件支出1」,「本件支出2」及び「本件支出3」といい,これらを併せて「本件各支出」という。)

 (5) 本件支出1は,被上告人が,目黒区情報公開条例(平成12年目黒区条例第58号)に基づき,本件跡地等の売却先の選定に関する本件委員会の審議の内容につき別件住民訴訟の証拠及び参考にするとして目黒区長に対し開示を請求し,目黒区長から開示を受けた本件委員会の議事の録音テープにつき,反訳業者に反訳及び複製を委託した際,その反訳及び複製の費用として支出したものである。

   本件支出2は,被上告人が,別件住民訴訟の尋問期日における本件跡地等の売却先の選定に関する目黒区職員の証言及び被上告人の供述につき,裁判所の作成する尋問調書とは別に,その証言及び供述の内容を反訳した速記録の作成を速記業者に委託した際,その反訳の費用として支出したものである。

   本件支出3は,別件住民訴訟につき,東京地方裁判所が被上告人の訴えの一部を却下し,その余の訴えに係る請求を棄却する旨の判決をしたことから,被上告人が,同判決を不服として控訴した際,その控訴提起手数料及び予納すべき送達費用に充てるための収入印紙及び郵便切手の購入の費用として支出したものである。

 (6) 被上告人は,自身のホームページ等を開設し,また,政務調査費を用いて作成した自身の広報紙を年1回約5万部発行して目黒区民等に配布しているところ,上記ホームページ等及び広報紙には,目黒区政の問題点に関する被上告人の意見,被上告人の目黒区議会における活動の様子等や,別件住民訴訟その他の被上告人が追行している住民訴訟等の詳細な経緯,経過,結果等が掲載されており,上記ホームページ等には,本件支出1に係る本件委員会の議事の録音テープの反訳文並びに本件支出2に係る別件住民訴訟における目黒区職員の証言及び被上告人の供述の反訳文も掲載されている。

 また,被上告人は,目黒区議会での一般質問において,本件跡地等の売却に関する質問をするなどしている。

 (7) 目黒区監査委員は,平成19年4月27日,上告人の住民による住民監査請求に基づき,本件各支出はいずれも住民訴訟のためにされたものであり,政務調査費の使途として認められないとして,目黒区長に対し,被上告人に対して本件各支出の合計額である13万5725円を不当利得として返還請求するよう勧告した。

 目黒区長は,上記の監査結果を受けて,被上告人に対し,平成19年5月1日付け「平成17年度分政務調査費の返還命令」と題する書面に,返還理由を「平成19年4月27日付けで目黒区監査委員から違法・不当な支出であるとされたため」と記載して,被上告人に対する平成17年度分の政務調査費のうち13万5725円の返還を命ずる本件処分をした。

 

原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件各支出が違法又は不当であるとしてされた本件処分は違法であり,取り消されるべきものであるとした。

 住民訴訟の提起及び追行は,議員による議会活動の基礎となる調査研究活動と趣旨及び目的において重なり合う面があり,その提起及び追行並びにこれによって得た情報等に基づく様々な活動は,区政の調査,研究及び追及のための重要かつ有効な手段となるほか,その提起を契機として区政の問題点につき議会での議論が喚起されることなどによって,各種の制度の改善等につながることもあり得る。これらによれば,本件各支出は,上告人の事務及び地方行財政に関する調査研究に要する経費として,いずれも本件使途基準の調査研究費に該当するものであり,違法又は不当な支出であるということはできない。

 

しかしながら,原審の上記判断のうち,本件支出1及び本件支出2に係る部分は結論において是認することができるが,本件支出3に係る部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 法100条13項は,政務調査費の交付につき,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができるものと定めており,その趣旨は,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化したものであると解される。そうすると,本件使途基準が調査研究費の内容として定める「会派又は議員が行う目黒区の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査…委託に要する経費」とは,議員の議会活動の基礎となる調査研究及び調査の委託に要する経費をいうものであり,議員としての議会活動を離れた活動に関する経費ないし当該行為の客観的な目的や性質に照らして議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められない行為に関する経費は,これに該当しないものというべきである。

 (2) しかるところ,住民訴訟の提起(上訴の提起を含む。以下同じ。)及び追行は,地方議会の制度とは別個独立の自己完結的な争訟制度を通じて地方公共団体の執行機関又は職員の財務会計上の違法な行為又は怠る事実を是正し又は予防することを目的とし,裁判所に対し法令と証拠に基づく法的判断を求めて請求の実現を図り攻撃防御を行う司法手続上の争訟活動を内容とする行為であり,客観的にみて,議会の審議能力の強化を図るために議会の議員活動の基礎となるものとして情報や資料を収集する調査や研究の活動とは,本来の目的や性質を異にするものである。住民訴訟の結果として違法な行為等の是正がされることがあるとしても,その是正は議会を通じて行われるものではないから,このことをもって,住民訴訟の提起及び追行それ自体と上記のような議員の議会活動の基礎となる調査研究活動とが客観的にみて本来の目的や性質を同じくするものであるということはできない。

 以上によれば,住民訴訟の提起及び追行は,その客観的な目的や性質に照らして,それ自体としては,議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められないものというべきである。

 なお,原審は,住民訴訟の提起及び追行につき,議員の議会活動の基礎となる調査研究活動と趣旨及び目的において重なり合う面があり,その提起及び追行並びにこれによって得た情報等に基づく活動が区政の調査,研究及び追及をするための有効かつ重要な手段となるほか,その提起を契機として区政の問題点につき議会での議論が喚起されるなどというが,住民訴訟の提起及び追行が,客観的にみて,議員の議会活動の基礎となる調査研究活動とは本来の目的や性質を異にするものであることは上記のとおりであり,また,それによって得られた情報等が議員の議会活動のために用いられ,あるいはそれを契機として当該争訟の内容が議会での議論の対象となることがあり得るとしても,これらは単に結果として生じ得る事実上の影響にすぎず,このような事実上の影響が結果的に生じ得ることをもって直ちに,住民訴訟の提起及び追行それ自体について議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められることになるとは解されない。

 (3) 上記(1)及び(2)において検討したところによれば,議員による住民訴訟の提起及び追行それ自体のために費用が支出された場合には,当該支出は,本件使途基準の調査研究費の支出に該当しないものというべきである。

もっとも,住民訴訟を提起し追行する議員が,当該訴訟の提起及び追行を端緒として,その過程でその結果として地方公共団体の保有する情報や資料を取得することはあり得るところ,これらの取得した情報や資料を,当該訴訟の追行とは別途に,議会活動に関して,その基礎となる調査研究又は議会審議に必要な資料の作成や議会活動の広報等に用いるために費用が支出された場合には,その費用が本件使途基準の調査研究費又は資料作成費や広報費等の他の項目に該当するとみる余地があり,当該情報や資料が住民訴訟を端緒として得られたものであることから直ちに当該支出がおよそ本件使途基準に適合しない支出であるとまではいい難い。

 (4) そこで,上記(1)ないし(3)において説示したところに照らし,本件各支出について検討する。

 本件支出3は,別件住民訴訟の提訴者である被上告人による控訴の提起に係る訴訟費用(控訴提起手数料の印紙代及び予納すべき送達費用の切手代)の支出であり,議員による住民訴訟の提起及び追行それ自体のための費用の支出であって,本件使途基準の調査研究費の支出に該当せず,本件使途基準の他の項目の支出に該当するものでもなく,本件使途基準に適合しない支出であるというべきである。

 これに対し,本件支出1は,本件跡地等の売却先の選定に関する本件委員会の議事の録音テープを文書化するための費用であり,本件支出2は,別件住民訴訟の尋問期日における本件跡地等の売却先の選定に関する関係者の証言及び供述の内容を文書化するための費用であるところ,被上告人は,目黒区議会の審議において,本件跡地等の売却について自らの主張に係る問題点を究明して議論の対象とするために本件跡地等の売却に関する質問をするなどの議会活動を行っており,これらの文書化された資料は,別件住民訴訟とは別途に,被上告人が現に行っている議員としての上記の議会活動に関して,被上告人の参加する質疑等の議会審議に必要な資料として用いることができるものであり,また,その内容が前記2(6)のとおり自身のホームページ等や広報紙に掲載され,上記の議会活動の広報に供する資料として用いられているとみることができるものである。本件支出1に係る録音テープは,被上告人が目黒区長に対し別件住民訴訟の証拠及び参考にするとしてその開示を請求し,これを受けて開示されたものではあるものの,そのことをもって直ちに,これを文書化した資料が上記のとおり別件住民訴訟とは別途に議員としての議会活動のために用いられるものとなって,その文書化の費用が本件使途基準のいずれかの項目に該当する余地のあることが否定されるというものではない。また,本件支出2に係る証言及び供述の内容も,それ自体は別件住民訴訟を端緒として当該訴訟の過程でその結果として得られたものではあるものの,そのことをもって直ちに,当該訴訟において裁判所が作成する尋問調書とは別に上記証言及び供述を文書化した資料が上記のとおり当該訴訟とは別途に議員としての議会活動のために用いられるものとなって,その文書化の費用が本件使途基準のいずれかの項目に該当する余地のあることが否定されるというものではない。なお,上告人の政務調査費の交付に係る条例又は規則等の定めにおいて,本件使途基準の項目を異にする支出につき交付の手続等が異なるなどの事情はうかがわれない。

 このような本件の事情の下においては,本件支出1及び本件支出2は,いずれも,被上告人の議員としての議会活動に関して,被上告人の参加する質疑等の議会審議の参考に供する資料又はその議会活動の広報に供する資料を作成するために支出された費用として,本件使途基準の資料作成費又は広報費の項目に該当する支出であるとみることができ,本件使途基準に適合しない支出であるということはできない。

 したがって,本件処分のうち,本件使途基準に該当しない支出である本件支出3に係る政務調査費の返還を命ずる部分については,実体上の違法事由は存しないものの,本件支出1及び本件支出2に係る政務調査費の返還を命ずる部分は,本件使途基準に該当する支出の返還を命じたものとみることができ,実体上の違法事由があるものといわざるを得ない。

 

(1) 以上によれば,本件処分のうち本件支出3に係る政務調査費の返還を命ずる部分につき,実体上の違法があるとして,同部分を取り消すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,本件処分のうち本件支出1及び本件支出2の合計金額(10万7375円)を超える部分の取消請求に係る部分は,破棄を免れない。そして,被上告人は,本件処分の手続上の違法事由として,本件処分の理由提示(目黒区行政手続条例(平成8年目黒区条例第1号)14条)の不備も主張しているところ,この点に関して更に審理を尽くさせるため,上記破棄部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 (2) 他方,以上によれば,本件処分のうち本件支出1及び本件支出2に係る政務調査費の返還を命ずる部分につき,実体上の違法があるとして,同部分を取り消すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。この点に関する論旨は採用することができない。したがって,上記破棄部分以外の部分に係る上告は,これを棄却することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 須藤正彦 裁判官 竹内行夫 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信)

◆2013.01.22(火)◆
最新判例―――│posted at 15:41:01

最判平25.1.22
平成
23()2229 賃料減額請求本訴,地代等支払請求反訴事 平成250122日 第三小法廷 判決 破棄自判

 

福岡高等裁判所 宮崎支部 平成22()122 平成230831

裁判要旨

 ゴルフ場経営を目的とする地上権設定契約及び土地賃貸借契約につき借地借家法11条の類推適用をする余地はないとされた事例

 

主 文

  1 原判決を次のとおり変更する。

   (1) 第1審判決を次のとおり変更する。

     被上告人の本訴請求をいずれも棄却する。

     被上告人は,上告人に対し,1746万3039円及びうち94万8655円に対する平成21年1月1日から,うち737万7690円に対する同年4月2日から,うち87万9283円に対する平成22年1月1日から,うち737万7690円に対する同年4月2日から,うち87万9721円に対する平成23年1月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

   (2) 被上告人は,上告人に対し,134万1690円及びこれに対する平成23年4月2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

   原判決1頁25行目に「1746万3049円」とあるのを「1746万3039円」と更正する。

   訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

理 由

 上告代理人樫八重真の上告受理申立て理由第2について

本件の本訴請求は,上告人から賃借し又は地上権の設定を受けた第1審判決別紙物件目録記載の25筆の土地(以下「本件土地」という。)を利用してゴルフ場を経営している被上告人が,上告人に対し,当初に合意された地代及び土地の借賃(以下「地代等」という。)がその後の事情により不相当に高額となっているとして,減額された地代等の額の確認,支払済みの地代等のうち正当とされる額を超える部分の返還とこれに対する借地借家法11条3項ただし書所定の年1割の割合による利息の支払をそれぞれ求めるものであり,反訴請求は,上告人が被上告人に対し,当初に合意された地代等を前提に,平成21年から平成23年までの地代等の未払分とこれに対する年6分の割合による遅延損害金の支払,本件土地の固定資産税の一部を被上告人が負担する旨の合意に基づき,その未払分とこれに対する年6分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めるものである。なお,反訴請求①のうち平成23年の未払分とこれに対する遅延損害金の支払を求める部分(主文第1項(2)に相当するもの)は,原審で追加されたものである。

 本件においては,上記の地上権及び土地賃借権につき,借地借家法11条の類推適用が認められるか否かが主な争点となっている。

 

原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 本件土地につき所有権又は共有持分権を有する上告人は,昭和63年7月28日,Aとの間で,本件土地のうちの13筆について地上権設定契約を,その余の12筆について賃貸借契約をそれぞれ締結した(以下,上記両契約を併せて「本件契約」という。)。上告人とAは,その際に,本件契約の存続期間中は本件土地の固定資産税のうち4万0238円を超える部分をAが負担する旨の合意(以下「本件税負担合意」という。)をした。

 本件契約では,地代等を合計年額737万7690円とすること,地代等の弁済期を毎年4月1日とすること,ゴルフ場経営を目的とすることが定められた。

 本件税負担合意では,Aが負担する金銭の弁済期は毎年12月末日とされた。

 (2) その後,本件契約の地上権者及び賃借人の地位は転々と譲渡され,被上告人は,上告人の承諾を得て,平成18年9月1日,上記地位を取得した。被上告人は,それ以来,本件土地を利用してゴルフ場を経営している。

 (3) 被上告人は,平成19年3月12日頃,上告人に対し,本件契約の地代等について減額の意思表示をした。

 (4) 被上告人は,平成21年4月1日支払分及び平成22年4月1日支払分の地代等並びに平成23年4月1日支払分の地代等のうち134万1690円を支払っていない。

 また,本件税負担合意に基づき被上告人が負担すべき額は,平成20年12月末日支払分が94万8655円,平成21年12月末日支払分が87万9283円,平成22年12月末日支払分が87万9721円であるが,被上告人はこれらも支払っていない。

 (5) 被上告人は,本件訴訟において,正当とされる地代等の額は合計年額427万9060円であると主張している。

 

原審は,反訴請求②を全部認容すべきものとしたほか,次のとおり判断して,本訴請求①及び②並びに反訴請求①をいずれも一部認容すべきものとした。
 借地借家法11条の立法趣旨の基礎にある事情変更の原則や契約当事者間における公平の理念に照らせば,建物の所有を目的としない本件契約においても同条1項及び3項ただし書の類推適用を認めるのが相当である。

 

しかしながら,原審の借地借家法11条の類推適用に関する上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 借地借家法は,建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権に関し特別の定めをするものであり(同法1条),借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しており(同法2条1号),同法の借地に関する規定は,建物の保護に配慮して,建物の所有を目的とする土地の利用関係を長期にわたって安定的に維持するために設けられたものと解される。同法11条の規定も,単に長期にわたる土地の利用関係における事情の変更に対応することを可能にするというものではなく,上記の趣旨により土地の利用に制約を受ける借地権設定者に地代等を変更する権利を与え,また,これに対応した権利を借地権者に与えるとともに,裁判確定までの当事者間の権利関係の安定を図ろうとするもので,これを建物の所有を目的としない地上権設定契約又は賃貸借契約について安易に類推適用すべきものではない。本件契約においては,ゴルフ場経営を目的とすることが定められているにすぎないし,また,本件土地が建物の所有と関連するような態様で使用されていることもうかがわれないから,本件契約につき借地借家法11条の類推適用をする余地はないというべきである。

 

以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある。論旨は理由があり,原判決中,本訴請求①及び②並びに反訴請求①の上告人敗訴部分は,いずれも破棄を免れない。そして,本件において事情変更の原則により地代等の減額がされるべき事情はうかがえず,本訴請求①及び②を全部棄却し,反訴請求①を全部認容すべきであるから,これに従って原判決を変更することとする。

 なお,原判決における控訴の趣旨の記載中,「1746万3049円」とあるのは,「1746万3039円」とすべきものであることが明らかであり,明白な誤りがあるから,職権により主文第2項のとおり更正する。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春)

◆2013.01.16(水)◆
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最判平24.21.21

平成23()392 生債権査定異議控訴,同附帯控訴事件 平成241221日 第二小法廷 判決 破棄差戻し

 

東京高等裁判所 平成22()2239 平成221124

 

裁判要旨

 臨時報告書等の虚偽記載等の事実の公表と再生手続開始の申立てとが同日にされた場合において金融商品取引法21条の2第4項又は5項の規定による減額を否定した原審の判断に違法があるとされた事例

 

主 文

  原判決を破棄する。

  本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 

理 由

 上告代理人中村直人,同倉橋雄作の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

本件は,上告人を再生債務者とする再生手続において,被上告人が届出をした再生債権につき,その額を0円と査定する旨の決定がされたことから,これを不服とする被上告人がその変更を求める異議の訴えである。被上告人は,上告人が提出し,公衆の縦覧に供された臨時報告書及び有価証券報告書に金融商品取引法(以下「金商法」という。)21条の2第1項にいう虚偽記載等があったため,上告人の株式を取引所市場で取得した被上告人が損害を被ったと主張して,同条に基づく損害賠償債権等につき,再生債権として届出をしている。

 

原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 上告人は,不動産に関するコンサルティング業務等を目的とする株式会社であり,その株式(以下「Y株」という。)は,平成14年から平成20年9月までの間,東京証券取引所市場第一部に上場されていた。

 (2) 上告人は,その事業資金を金融機関からの借入金で調達していたが,平成19年末頃から,不動産投資市場の冷え込み等により金融機関の不動産業界に対する融資姿勢が厳格化したため,新たな借入れや借換えが困難となった。上告人は,平成20年2月末から同年7月末までの5箇月間に約570億円の借入金を返済せざるを得ない状況にあったが,同年3月には,上告人が反社会的勢力と関わりがあるとの風評が広まって信用が低下し,その資金調達は一層困難となった。上告人は,同年6月末までに約200億円の借入金や約123億円の法人税等を支払う必要があったが,同月4日には,格付機関によって,上告人の社債の格付けが投機的水準とされる「BB+」に引き下げられるなどして,金融機関や市場からの資金調達はますます困難となっていった。こうした状況の下,上告人は,同年5月末頃から再生手続開始の申立て等について検討するようになった。

 (3) 他方で,上告人は,平成20年6月初めから,米国の大手投資銀行であるAないしそのグループ企業(以下「A」という。)との間で業務・資本提携の交渉を開始し,その結果,同月中には,上告人が保有する物件等の売却により約169億円の資金を調達することに成功し,これを債務の返済に充てた。また,Aが同年8月にも上告人に対する株式の公開買付け(以下「TOB」という。)を実施することが見込まれるようになり,上告人は,同年6月19日,再生手続開始の申立ての検討を一旦中止した。同年7月には,Aから,上告人に対し,TOBを実施する意向が書面で伝えられた。

 (4) 上告人は,更に資金調達を図るため,Aとの交渉と並行して,B(以下「B」という。)に発行総額を300億円とする転換社債型新株予約権付社債(以下「本件CB」という。)を発行することとし,平成20年6月26日に取締役会においてその旨の決議をした上で,同年7月11日,本件CBを発行し,Bから払込金の支払を受けた。

 (5) 併せて,上告人は,平成20年6月26日及び同年7月8日,Bとの間で,要旨,上告人が,同月11日,Bに対し,当初支払金として300億円を支払い,Bが,同年6月27日から平成22年7月7日までの間を計算期間として,上告人に対し,Y株の平均市場価格に応じて計算された金額を変動支払金として支払うなどという内容の契約(以下,併せて「本件スワップ契約」という。)を締結した。

 本件CBの発行に併せて本件スワップ契約が締結されたことにより,本件CBの発行によって上告人がBから受領した上記払込金が,本件スワップ契約に基づき,即座にBに当初支払金として支払われることとなったのに対し,その後上告人が得る変動支払金は,Y株の市場価格によって変動し,その市場価格が一定額を下回って推移した場合には,上記変動支払金が支払われない可能性もあった。

 (6) ところが,上告人が平成20年6月26日に関東財務局長に提出し,公衆の縦覧に供された本件CB発行に係る臨時報告書(以下「本件臨時報告書」という。)には,本件CBの「手取金の使途」として,「本件取引により調達する資金につきましては,財務基盤の安定性確保に向けた短期借入金を始めとする債務の返済に使用する予定です。」とのみ記載されており,本件CBの発行による払込金が本件スワップ契約における当初支払金に充てられることはもちろんのこと,本件スワップ契約の存在そのものについても何ら記載されていなかった。また,上告人が同月30日に関東財務局長に提出し,公衆の縦覧に供された有価証券報告書(以下「本件有価証券報告書」という。)にも,本件CBの発行の「資金の使途」として,「債務の返済」とのみ記載されており,本件スワップ契約については何ら記載されていなかった(以下,本件臨時報告書及び本件有価証券報告書における上記の内容の記載等を「本件虚偽記載等」という。)。本件虚偽記載等は,金商法21条の2第1項にいう虚偽記載等に当たる。

 (7) Aは,平成20年8月6日,上告人に対し,TOBの実施を見送る旨通知した。

 (8) 上告人は,平成20年8月13日,関東財務局長に対し,本件臨時報告書の訂正報告書を提出した上,本件虚偽記載等の事実を公表するとともに,本件スワップ契約により58億円の営業外損失が発生したことを公表した(以下,上告人が本件虚偽記載等の事実を公表した日を「本件公表日」という。)。併せて,上告人は,同日,東京地方裁判所に再生手続開始の申立てをして(以下「本件再生申立て」という。),その旨を公表し,同月18日,再生手続開始の決定を受けた。

 (9) Y株は,本件公表日の平成20年8月13日には,その市場価格が62円(終値)であったが,翌日以降大幅に値下がりし,同年9月14日,上場廃止となった。

 (10) 被上告人は,Y株に投資していた個人投資家であり,取引所市場において,平成20年8月12日に3200株を22万0800円で,同月13日に100株を6800円で購入し,本件公表日後の同月15日,上記3300株を2万9700円で売却した。

 (11) 被上告人は,平成20年9月10日,上告人の再生手続において,本件虚偽記載等を理由とする金商法21条の2に基づく損害賠償債権及びその不履行による損害金債権につき,再生債権として,その額を41万0850円及びこれに対する同年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員とする届出をしたところ(以下,この届出に係る債権を「本件債権」と総称する。),上告人は,その全額を認めなかった。そこで,被上告人が査定の申立てをしたところ,東京地方裁判所は,本件債権につき,その額を0円と査定する旨の決定をしたため,被上告人は,これを不服として本件訴えを提起した(なお,被上告人は,本件債権の額を15万8320円及びこれに対する同月18日から支払済みまで年5分の割合による金員と査定した第1審判決に対し,その額を19万7900円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員とすることを求める限度で附帯控訴をしている。)

 

原審は,上記事実関係の下において,本件虚偽記載等により被上告人に生じた損害の額につき,金商法21条の2第2項の規定により算定した上,同条4項又は5項の規定による減額の可否につき,次のとおり判断して,本件債権の額を19万7900円及びこれに対する平成20年8月18日から支払済みまで年5分の割合による金員と査定すべきものとした。

 上告人の経営は,平成20年6月末には破綻状態にあり,そのことが市場にも明らかであったことからすると,Y株の値下がりは,本件虚偽記載等の事実が公表されたことで,上告人の信用が喪失し,今後の上告人の資金調達の見込みが失われたことにその原因があったと認めることができる。上告人は,同月末の時点で,資金調達の見込みがなければ,再生手続開始の申立てをしなければならない状況にあり,本件再生申立ては,本件虚偽記載等の事実の公表に伴って必然的に採らなければならない対応であったから,Y株の値下がりが本件再生申立てによって生じたものと認めることはできない。したがって,Y株の値下がりは,全て本件虚偽記載等の事実の公表により生じたものと認められ,それ以外の事情により生じたとは認められないから,金商法21条の2第4項又は5項の規定による減額をすることはできない。

 

しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 金商法21条の2第4項又は5項の規定による減額の可否について

   金商法21条の2第4項及び5項にいう「虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り」とは,当該虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりをいうものと解するのが相当である(最高裁平成22年(受)第755号ないし第759号同24年3月13日第三小法廷判決・民集66巻5号1957頁参照)

   これをまず本件公表日後1箇月間のY株の値動きについてみると,本件公表日においては,本件虚偽記載等の事実とともに,本件再生申立ての事実についても公表されていることに照らすと,本件公表日後のY株の値下がりは,上記両事実があいまって生じたものとみるのが相当である。

 そして,本件再生申立てによる値下がりが本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりと評価することができるか否かについて検討すると,次のとおりである。上告人が本件再生申立てに至ったのは,前記事実関係のとおり,平成19年末頃から継続していた金融機関の融資姿勢の厳格化等に伴う資金繰りの悪化によるものである。本件虚偽記載等の事実の公表によって上告人の信用が低下した面があることは否定できないとしても,本件虚偽記載等や,その事実の公表に起因して,上記の資金繰りの悪化がもたらされたわけではない。また,前記事実関係によれば,Y株の市場価格次第では,本件スワップ契約による資金調達が見込めないわけではなかったのみならず,仮に本件CBないし本件スワップ契約による資金調達が実現しなかったとしても,上告人は,平成20年6月初めからAとの間で業務・資本提携の交渉を開始しており,実際にも多額の資金を調達することに成功して,これを債務の返済に充てていたほか,AによるTOBが同年8月に実施されることも見込まれ,同年6月19日には上告人が再生手続開始の申立ての検討を一旦は中止していたというのであって,本件虚偽記載等がされなかった場合に,こうしたAとの提携交渉までもが頓挫したことが確実であることをうかがわせる事情は見当たらない。そうすると,本件虚偽記載等がされた当時,上告人が倒産する可能性があったことは否定できないものの,上告人が既に倒産状態又は近々倒産することが確実な状態であったということはできず,本件虚偽記載等によってそのことが隠蔽されていたということもできない。そして,ほかに本件再生申立てによるY株の値下がりが本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりであると評価すべき事情は見当たらない。

 以上によれば,本件公表日後1箇月間に生じたY株の値下がりは,本件虚偽記載等の事実と本件再生申立ての事実があいまって生じたものであり,かつ,本件再生申立てによる値下がりが本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりということはできないから,本件再生申立てによる値下がりについては,本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じたものとして,金商法21条の2第4項又は5項の規定によって減額すべきものである。

   また,本件公表日前1箇月間のY株の値動きについてみると,記録によれば,Y株は,本件臨時報告書の提出よりも1箇月以上前の平成20年5月14日にその市場価格が716円(終値)となった以降,本件公表日に至るまで,ほぼ一貫して値下がりを続けていたことがうかがわれる。前記事実関係によれば,上告人は,当時,資金調達に困難を来すなど,その経営が危ぶまれる状態にあったのであって,上記値下がりには,上告人の経営状態など本件虚偽記載等とは無関係な要因により生じた分が含まれていることは否定できない。

 なお,本件スワップ契約締結後の値下がりについては,Bが新株予約権を行使するなどして得たY株を市場で売却したことによって生じた分が含まれている可能性は否定できないが,仮にそうだとしても,上記のとおり,本件スワップ契約締結以前からY株がほぼ一貫して値下がり傾向にあったことなどに照らすと,本件公表日前の値下がりに本件虚偽記載等とは無関係な要因により生じた分が含まれていることは否定できないというべきである。

 したがって,本件公表日前1箇月間のY株の値下がりには,本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じた分が含まれているのであるから,この分についても金商法21条の2第4項又は5項の規定によって減額すべきものである。

   以上によれば,Y株の値下がりによって被上告人が受けた損害の一部には,本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じたものが含まれているというべきであるのに,これを否定して,被上告人が受けた損害の全部が本件虚偽記載等により生じたものであるとして,金商法21条の2第4項又は5項の規定による減額を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。

 (2) 金商法21条の2第2項の適用について

   金商法21条の2第2項は,「公表日前1月間の当該有価証券の市場価額…の平均額から当該公表日後1月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額」を虚偽記載等により生じた損害の額とすることができると規定しているが,同項にいう「公表日前」及び「公表日後」「公表日」を含まないことは,その文言上明らかである。したがって,同項にいう「公表日」が平成20年8月13日である本件においては,「公表日前」1箇月間とは同年7月13日から同年8月12日までを指すものである(ただし,同年7月13日は日曜日であって,市場取引が行われていないから,同月14日から同年8月12日までの市場価額の平均額を算出すべきこととなる。)

 しかるに,原審は,本件公表日である平成20年8月13日を「公表日前」1箇月間に含め,同年7月14日から同年8月13日までの市場価額(終値)の平均額をもって金商法21条の2第2項所定の損害の額を算定する基礎としているのであるから,原審の判断中この部分にも判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

  また,金商法21条の2第2項を適用して損害の額を算定するためには,投資者が「公表がされた日…前1年以内」に当該有価証券を取得していることが必要であり,公表日に取得した有価証券について,同項を適用することが許されないことは,その文言上明らかである。

 しかるに,原審は,本件公表日である平成20年8月13日に被上告人が取得したY株100株についても,金商法21条の2第2項を適用して損害の額を算定しているのであるから,原審の判断中この部分にも判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

  (3) 結論

 以上の次第であるから,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人に対する損害賠償の額について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦の補足意見がある。

 

 裁判官須藤正彦補足意見は,次のとおりである。

 私は法廷意見に賛同するものであるが,所論に鑑み,Y株の本件再生申立てによる市場価額の値下がりと本件虚偽記載等との関係につき,なお少しく敷えんしておきたい。

法廷意見のとおり,上告人は,本件臨時報告書,本件有価証券報告書提出の頃,経営が危ぶまれる状態(以下「経営難」という。)にあったが破綻状態にあったわけではない。破綻状態とは,当該企業が単に格付機関による格付けが「BB+」に引き下げられたことや多額の負債を抱えているなどの状態にあるだけでなく,支払不能,債務超過又は事業の継続に著しい支障を来すことなく債務を弁済することができないといった状態に陥っていることを指すといえる(破産法16条,民事再生法21条,会社更生法17条参照)。一般に企業の経営難は,組織再編や事業上あるいは財務上の対応策が講ぜられることによって事業の継続がなされ打開され得る。この意味で,経営難の状態とはいわばそのような対応策が求められている状態であり,破綻状態とはいわばそれらの対応策が尽きて事業の継続が著しく困難になった状態であるということも可能である。本件臨時報告書,本件有価証券報告書提出の頃も,上告人は,法廷意見のとおり,経営難に陥ってはいたが,Aとの業務・資本提携などの対応策が実行の途次にあり,かつ,この後にその一部の実行をみたもので,その意味で事業の継続に著しい支障を来すという状態にあったというわけではないから,破綻状態に至っていたということはできないのであって,本件公表日の直近に至り,それらの対応策が結局奏功しないなどにより資金繰りが行き詰まり破綻状態に陥ったというものである。

次に,本件虚偽記載等は,経営難にある上告人が講じている財務上の対応策の内容につきその重要な一部に関して虚偽記載等を行っているというものであって,資本市場(株式市場)の信頼を甚だしく損ない,その健全な成長を妨げるものではあるとしても,破綻状態にあることを隠蔽した記載等を行っているとはいえない。もっとも,本件臨時報告書等において,本件CB発行に際してのスワップ契約などの仕組みについても過不足なく開示されたならば,上告人の資金調達について何らかの疑念を招き得,上告人にとって好ましくない風評も市場に流れるであろうことは容易に予想され,その結果,一時的な混乱は避け難いであろうが,だからといって上記の業務・資本提携などの対応策が頓挫しあるいは破綻状態に至ることが確実であることをうかがわせる事情は見当たらない。むしろ,このような一時的混乱は適宜の対応措置が講ぜられれば早晩解消され得るともいえるから,虚偽記載等が行われないのであれば確実に破綻状態となり再生申立てを行うに至るとまではいえないというべきである。

上告人は,虚偽記載等の公表日当日に本件再生申立てをも行ったものである。それは資金繰りが行き詰まって破綻状態となったからであるが,そのような事態は,本件虚偽記載等及びその公表という事実によるものではなく,前記のとおり,本件公表日の直近時に前記の業務・資本提携策などの打開策が功を奏さなかったからである。更には,本件虚偽記載等の公表自体が上告人を必然的に破綻状態にさせ,再生申立てに至らしめるという性質を有することをうかがわせる事情は見当たらず,したがって,本件虚偽記載等と本件再生申立てとを一体視することもできない。

結局,本件虚偽記載等は,本件臨時報告書等の提出及びその公表のいずれの段階においても上告人の破綻状態とは有意の結びつきは認められず,本件再生申立てによるY株の値下がりは本件虚偽記載等と相当因果関係ある値下がりとは評価され得ない。再生申立て後の当該株式の市場価額の暴落は経験則上明らかで,このことは原審も認めるところ,それは虚偽記載等と相当因果関係ある値下がり以外の事情によるものとして上告人により主張立証されることで,金商法21条の2第2項によって推定される金額から同条4,5項により減額されるべきものである。

(裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦補足意見 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信)

◆2013.01.15(火)◆
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最判平24.12.21

平成23()1626 所有権移転登記手続,持分移転登記抹消登記手続等,持分権確認等請求事件 平成241221日 第二小法廷 判決 その他

 

名古屋高等裁判所 平成22()530 成230512

 

裁判要旨

 将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものとされた事例

 

主 文

   原判決主文第10項及び第12項中,以下の(1)及び(2)記載の各請求を認容した部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。

   (1) 被上告人X1の上告人に対する平成22年11月27日以降に生ずべき1か月5万4983円の割合による不当利得金の返還請求

   (2) 被上告人X2の上告人に対する平成22年11月27日以降に生ずべき1か月2408円の割合による不当利得金の返還請求

   前項の各部分に係る被上告人らの訴えを却下する。

   上告人のその余の上告を棄却する。

   訴訟の総費用は,これを4分し,その3を上告人の,その余を被上告人らの負担とする。

 

理 由

 上告代理人前川弘美ほかの上告受理申立て理由第3の4について

 本件は,第1審判決別紙物件目録記載1~3の各土地の共有者の1人である上告人がこれを第三者に駐車場として賃貸して得る収益につき,他の共有者である被上告人らが,上告人に対し,被上告人らの持分割合に相当する部分の不当利得返還請求等をする事案である。

 原審は,被上告人らの請求を一部認容したが,原審の判断中,原審の口頭弁論終結の日の翌日である平成22年11月27日以降に生ずべき不当利得金の返還請求を認容した部分(以下「本件将来請求認容部分」という。)は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 共有者の1人が共有物を第三者に賃貸して得る収益につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものである(最高裁昭和59年(オ)第1293号同63年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事153号627頁参照)

 そうすると,原審の判断中,本件将来請求認容部分には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,この点をいう論旨は理由がある。原判決中,本件将来請求認容部分は破棄を免れず,同部分に係る被上告人らの請求を棄却した第1審判決を取り消し,同部分に係る被上告人らの訴えを却下すべきである。なお,当該訴えは,上記のとおり不適法でその不備を補正することができないものであるから,口頭弁論を経ないで判決をすることとする(最高裁平成18年(受)第882号同19年5月29日第三小法廷判決・裁判集民事224号391頁参照)

 その余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦,同千葉勝美の各補足意見がある。
 

 裁判官千葉勝美補足意見は,次のとおりである。

 私は,将来の給付請求の適格との関連で,法廷意見に付加して,次のとおり私見を述べておきたい。

将来発生すべき債権に基づく将来の給付請求については,その基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し,その継続が予測されるとともに,債権の発生・消滅及びその内容につき債務者に有利な将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られ,しかもこれについて請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ強制執行を阻止し得るという負担を債務者に課しても,当事者間の衡平を害することがなく,格別不当とはいえない場合に,例外的に可能となるものと解されている(最高裁昭和51年(オ)第395号同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁参照)

 これを前提にした上で,前掲最高裁昭和63年3月31日第一小法廷判決は,共有物件である土地を第三者に専用駐車場として賃貸することによって得た賃料収入に関し,相手方の持分割合を超える部分の不当利得返還を求める請求については,賃貸借契約が解除等で終了したり,賃借人が賃料の支払を怠っているようなときには,将来請求はその基礎を欠くところ,これらは専ら賃借人側の意思等に基づきされることでもあり,必ず約定どおりに支払われるとは限られない等の点から,将来の給付請求を可能とする適格を欠くとしている。

この昭和63年第一小法廷判決は,裁判集に登載され,判示事項としては,「将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しないものとされた事例」となっており,文字どおり事例判断であることが明示されている。もっとも,その裁判要旨としては,持分割合を超える賃料部分の不当利得返還を求める請求のうち事実審の口頭弁論終結時後に係る部分は,将来の給付請求の適格を欠くとされ,法理に近い表現が用いられてはいるが,当該事案を前提とした判示であり,事例判断であることは争いがないところであろう。

 そうすると,事例判断としてのこの判決の射程距離が問題になるが,この判決の理解としては,持分割合を超える賃料部分の不当利得返還を求める将来請求の場合を述べたものとする理解(このような捉え方をしていると思われる他の最高裁判例として,最高裁平成7年(オ)第1203号同12年1月27日第一小法廷判決・民集54巻1号1頁がある。)と,①の場合に加え,当該賃料が駐車場の賃料であるという賃料の内容・性質をも含んだ事例についての判断であるとする理解とがあり得るところである。

 このうち,①の理解によると,この裁判要旨については,将来得るべき賃料はそれが現実に受領されて初めて不当利得返還請求権が発生することから,その発生は第三者の意思等によるところ,そのような構造を有する将来請求全てに射程距離が及ぶ判断であると捉えることにもなろう。しかし,昭和56年大法廷判決の法理によって将来請求の適否を判断するためには,当該不当利得返還請求権の内容・性質,すなわち,その発生の基礎となる事実関係・法律関係が将来も継続するものかどうかといった事情が最重要であり,それを個別に見て判断すべきであるとすれば,昭和63年第一小法廷判決の射程距離については②の理解を採ることになろう。

私としては,上記①の理解はいささか射程が広すぎるように思う。すなわち,居住用家屋の賃料や建物の敷地の地代などで,将来にわたり発生する蓋然性が高いものについては将来の給付請求を認めるべきであるし,他方,本件における駐車場の賃料については,50台程度の駐車スペースがあり,これが常時全部埋まる可能性は一般には高くなく,また,性質上,短期間で更新のないまま期間が終了したり,期間途中でも解約となり,あるいは,より低額の賃料で利用できる駐車場が近隣に現れた場合には賃借人は随時そちらに移る等の事態も当然に予想されるところであって,将来においても駐車場収入が現状のまま継続するという蓋然性は低いと思われ,その点で将来の給付請求を認める適格があるとはいえない。いずれにしろ,将来の給付請求を認める適格の有無は,このようにその基礎となる債権の内容・性質等の具体的事情を踏まえた判断を行うべきであり,その意味でも昭和63年第一小法廷判決の射程距離については,上記②の理解に立つべきである。

ところで,本件の法廷意見は,昭和63年第一小法廷判決を引用して,共有者の1人が共有物である本件の駐車場を第三者に賃貸して得る駐車場収入につき,その持分割合を超える部分の不当利得返還を求める他の共有者の請求のうち,事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分は,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求としての適格を有しない旨を説示している。これは,本件が昭和63年第一小法廷判決と事案が類似していること,特に駐車場の賃料が不当利得返還請求権の対象となっていることから,事案の内容を詳細に判示する必要がないため,簡潔な表現で判断を示したものと解することができる。しかしながら,将来的には,将来の給付請求を認める適格について,昭和63年第一小法廷判決が上記①を射程としているという理解を前提にして適格を肯定する範囲が不当に狭くなるということがないように,それにふさわしい事案が係属し,その処理がされる際には,上記②を射程としていることが明らかとなるように当審の判断を示す必要があるものと考える。

 

 裁判官須藤正彦は,裁判官千葉勝美の補足意見に同調する。

(裁判長裁判官 須藤正彦補足意見 裁判官 竹内行夫 裁判官 千葉勝美補足意見 裁判官 小貫芳信)

◆2013.01.15(火)◆
最新判例―――│posted at 23:35:37

最判平24.12.24

平成23()1833 貸金請求事件 平成241214日 所第二小法廷 判決 棄却

 

東京高等裁判所 平成22()8278 平成230531

 

裁判要旨

 根保証契約の被保証債権を譲り受けた者は,その譲渡が元本確定期日前にされた場合であっても,当該根保証契約の当事者間に別段の合意がない限り,保証人に対し,保証債務の履行を求めることができる

 

主 文

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告人の負担とする。

 

理 由

 上告代理人布留川輝夫の上告受理申立て理由について

本件は,根保証契約の主たる債務の範囲に含まれる債務に係る債権(以下「被保証債権」という。)を当該根保証契約に定める元本確定期日前に譲り受けた被上告人が,保証人である上告人に対し,保証債務の履行を求める事案である。

 

原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1) 株式会社Aは,平成19年6月29日,有限会社Bに対し,弁済期を平成20年6月5日として8億円を貸し付けた。

 (2) 上告人は,平成19年6月29日,Aに対し,Aを貸主とし,Bを借主とする金銭消費貸借契約取引等により生ずるBの債務(上記(1)の貸付けに係るものを含む。)を主たる債務とし,極度額を48億3000万円,保証期間を平成19年6月29日から5年間とする連帯保証をした(以下「本件根保証契約」という。)

 (3) Aは,平成20年8月25日,Bに対し,弁済期を平成21年8月5日として7億円を貸し付けた。

 (4) Aは,平成20年8月25日,Bに対し,弁済期を平成21年8月5日として9990万円を貸し付けた。

 (5) Aは,平成20年9月26日,上記(3)及び(4)の各貸付けに係る債権を株式会社Cに譲渡し,Cは,同日,当該各債権を被上告人に譲渡した。

 

原審は,被保証債権が譲渡された場合には,その譲渡が根保証契約に定める元本確定期日前であっても,保証人に対する保証債権もこれに随伴して移転するとして,被上告人の請求を認容すべきものとした。

 

所論は,被保証債権の譲渡が根保証契約に定める元本確定期日前にされた場合には,当該被保証債権の譲受人が保証人に対し,保証債務の履行を求めることはできないと解すべきであるというものである。

 

根保証契約を締結した当事者は,通常,主たる債務の範囲に含まれる個別の債務が発生すれば保証人がこれをその都度保証し,当該債務の弁済期が到来すれば,当該根保証契約に定める元本確定期日(本件根保証契約のように,保証期間の定めがある場合には,保証期間の満了日の翌日を元本確定期日とする定めをしたものと解することができる。)前であっても,保証人に対してその保証債務の履行を求めることができるものとして契約を締結し,被保証債権が譲渡された場合には保証債権もこれに随伴して移転することを前提としているものと解するのが合理的である。そうすると,被保証債権を譲り受けた者は,その譲渡が当該根保証契約に定める元本確定期日前にされた場合であっても,当該根保証契約の当事者間において被保証債権の譲受人の請求を妨げるような別段の合意がない限り,保証人に対し,保証債務の履行を求めることができるというべきである。

 本件根保証契約の当事者間においては上記別段の合意があることはうかがわれないから,被上告人は,上告人に対し,保証債務の履行を求めることができる。

 

これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦の補足意見がある。

 

 裁判官須藤正彦補足意見は,次のとおりである。

 私は,法廷意見に賛同するものであるが,所論に鑑み,いわゆる根保証の随伴性の問題に関連して以下のとおり補足しておきたい。

 上告人は,本件根保証契約を根抵当権と同じように捉えるべきであり,元本確定期日前にAから譲渡された債権については保証人としての責めを負わないにもかかわらず,上告人に保証人としての責めを負わせることになる原審の結論が上告人の予測に反する結果を招来する旨の主張をする。もとより,根保証契約については,契約自由の原則上,別段の合意により保証債権に随伴性を生じさせないようにすることも自由であり,したがって,例えば,根保証契約において,主たる債務の範囲に含まれる債務のうち,元本確定期日の時点で主債務者が当初の債権者に対して負う債務のみについて保証人が責めを負う旨の定めを置いておけば,その定めは,法廷意見における「譲受人の請求を妨げる別段の合意」と解されて,そのとおりの効力が認められるというべきである。

 しかるところ,原審の適法に確定した事実によれば,Aは,Bに対し,平成19年6月29日,8億円を貸し付け,さらにその借換えとして,同20年8月25日に計7億9990万円を貸し付けたものである。そして,記録によれば,平成19年6月29日付けの,A,B及び上告人の三者を当事者とする「金銭消費貸借・手形割引等継続取引並びに限度付根保証承諾書兼金銭消費貸借契約証書」(以下「本件根保証契約書」という。)には,保証人たる上告人は,極度額(48億3000万円)の範囲内で,同日付けの貸付けに係る債務のほか,本件根保証契約締結日現在に発生している債務及び5年間の保証期間(元本確定期日の前日まで)に発生する債務並びにこれらのうち債権者(A)がCに譲渡した債権に係る債務を保証する旨が記載されている。このような本件根保証契約書上に記載された文言からすれば,主たる債務の範囲に含まれる債務のうち,元本確定期日の時点で主債務者たるBが当初の債権者たるAに対して負う債務のみについて保証人としての責めを負うとの趣旨はうかがい得ない。

 なお,平成19年6月29日付けの8億円の貸付けに係る債務は,主たる債務の範囲に含まれているから,上告人は,この個別の債務を含めて保証したものである。もとより,個別の債務の保証債権は主たる債権の移転に随伴するところ,もしこの8億円の貸付けに係る債権について譲渡がされれば,保証債権も債権の譲受人に移転するから,その場合,上告人は8億円の貸付けに係る債権について保証人としての責めを免れないところのものである。しかして,この8億円の貸付けに係る債権とその借換えによって発生した7億9990万円の貸付けに係る債権とは経済的実質においては同一と評価され,後者は元本確定期日前にCに譲渡され,それが更に被上告人に譲渡されたものであるから,上告人が当該債権について保証人としての責めを負うということはその予測の範囲内のことと思われるのである。

 以上要するに,本件根保証契約書の記載文言に沿った合理的意思解釈という見地に立ってみた場合,本件根保証契約においては,被上告人の請求を妨げるような別段の合意がされたとみることはできないというべきである。

(裁判長裁判官 須藤正彦補足意見 裁判官 竹内行夫 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信)

◆2013.01.11(金)◆
最新判例―――│posted at 18:34:55

最判平25.1.11 医薬品ネット販売

平成24(行ヒ)279 医薬品ネット販売の権利確認等請求事件 平成250111日 第二小法廷 判決 棄却

東京高等裁判所 平成22(行コ)168 平成240426日 

裁判要旨

 薬事法施行規則15条の4第1項1号,159条の14第1項及び2項本文,159条の15第1項1号並びに159条の17第1号及び2号の各規定の法適合性

 

主 文

  本件上告を棄却する。

  上告費用は上告人の負担とする。

 

理 由

 上告代理人青野洋士ほかの上告受理申立て理由について

本件は,平成18年法律第69号1条の規定による改正後の薬事法(以下「新薬事法」という。)の施行に伴って平成21年厚生労働省令第10号により改正された薬事法施行規則(以下「新施行規則」という。)において,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与(以下「郵便等販売」という。)は一定の医薬品に限って行うことができる旨の規定及びそれ以外の医薬品の販売若しくは授与又は情報提供はいずれも店舗において薬剤師等の専門家との対面により行わなければならない旨の規定が設けられたことについて,インターネットを通じた郵便等販売を行う事業者である被上告人らが,新施行規則の上記各規定は郵便等販売を広範に禁止するものであり,新薬事法の委任の範囲外の規制を定める違法なものであって無効であるなどと主張して,上告人を相手に,新施行規則の規定にかかわらず郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求める事案である。

 

(1) 新薬事法の関係規定

 一般用医薬品(医薬品のうち,その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの。25条1号)は,第一類医薬品(その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品のうちその使用に関し特に注意が必要なものとして厚生労働大臣が指定するもの等。36条の3第1項1号),第二類医薬品(その副作用等により日常生活に支障を来す程度の健康被害が生ずるおそれがある医薬品(第一類医薬品を除く。)であって厚生労働大臣が指定するもの。同項2号)及びそれ以外の第三類医薬品(同項3号)に区分される。なお,原審の認定によれば,平成19年当時における一般用医薬品の販売高に占める構成比は,第一類医薬品が約4%,第二類医薬品が約63%,第三類医薬品が約33%となっていた。

 27条に規定する店舗販売業者は,厚生労働省令で定めるところにより,第一類医薬品については薬剤師,第二類医薬品及び第三類医薬品については薬剤師又は登録販売者(一般用医薬品の販売又は授与に従事するのに必要な資質を有することを確認するために都道府県知事が行う試験に合格するなどして36条の4第2項の登録を受けた者)に販売させ,又は授与させなければならない(36条の5)

 店舗販売業者は, その店舗において第一類医薬品を販売し,又は授与する場合には,厚生労働省令で定めるところにより,薬剤師をして,所定の事項を記載した書面を用いて,その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならず(36条の6第1項) その店舗において第二類医薬品を販売し,又は授与する場合には,厚生労働省令で定めるところにより,薬剤師又は登録販売者をして,その適正な使用のために必要な情報を提供させるよう努めなければならず(同条2項) その店舗において一般用医薬品を購入し,若しくは譲り受けようとする者又はその店舗において一般用医薬品を購入し,若しくは譲り受けた者若しくはこれらの者によって購入され,若しくは譲り受けられた一般用医薬品を使用する者から相談があった場合には,厚生労働省令で定めるところにより,薬剤師又は登録販売者をして,その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならない(同条3項)。ただし,同条1項の規定は,医薬品を購入し,又は譲り受ける者から説明を要しない旨の意思の表明があった場合には,適用しない(同条4項)

 (2) 新施行規則の関係規定

 店舗販売業者は,当該店舗において, 第一類医薬品については,薬剤師に,自ら又はその管理及び指導の下で登録販売者若しくは一般従事者をして,対面で販売させ,又は授与させなければならず(159条の14第1項) 第二類医薬品又は第三類医薬品については,薬剤師又は登録販売者に,自ら又はその管理及び指導の下で一般従事者をして,対面で販売させ,又は授与させなければならないが(同条2項本文),第三類医薬品を販売し,又は授与する場合であって,郵便等販売を行う場合は,この限りでない(同項ただし書)

 店舗販売業者は,当該店舗内の情報提供を行う場所において, 新薬事法36条の6第1項の規定による第一類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師に対面で行わせなければならず(159条の15第1項1号) 新薬事法36条の6第2項の規定による第二類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師又は登録販売者に対面で行わせるよう努めなければならず(159条の16第1号) 新薬事法36条の6第3項の規定による第一類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師に対面で行わせなければならず(159条の17第1号) 新薬事法36条の6第3項の規定による第二類医薬品又は第三類医薬品に係る情報の提供を,薬剤師又は登録販売者に対面で行わせなければならない(159条の17第2号)

 店舗販売業者は,郵便等販売を行う場合には,第三類医薬品以外の医薬品を販売し,又は授与してはならない(142条,15条の4第1項1号)

 

原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 被上告人らは,平成18年法律第69号1条の規定による改正前の薬事法(以下「旧薬事法」という。)の下で店舗を開設してインターネットを通じた郵便等販売を行っていた事業者である。なお,旧薬事法の下においても,厚生省ないし厚生労働省は,各地方自治体に対し,医薬品については対面販売を実施するよう指導することや,郵便等販売は対面販売の趣旨が確保されないおそれがあるからその範囲を一定の薬効群のものに限るよう指導することを求める通知等を度々発出していたが,旧薬事法に郵便等販売を禁止する規定がなかったこともあり,平成18年頃までには多くの事業者がインターネットを通じた郵便等販売を行っており,その対象品目には新薬事法の下における第一類医薬品や第二類医薬品に相当するものが多数含まれていた。

 (2) 内閣府設置法37条2項に基づく合議制の機関として内閣府に設置されていた総合規制改革会議は,平成15年12月,コンビニエンスストアで解熱鎮痛剤等が販売可能となれば消費者の利便性は大幅に向上すること,薬局等において対面で服薬指導をしている実態は乏しい上,薬剤師が不在である例も多いにもかかわらず薬剤師が配置されていない事実に直接起因する副作用等による事故は報告されていないことなどからすれば,人体に対する作用が比較的緩やかな医薬品群については一般小売店でも早急に販売できるようにすべきであるなどとする旨の答申をした。

 (3) 厚生労働大臣の諮問機関である厚生科学審議会は,平成16年4月,医学,薬学,経営学,法律学,消費者保護の分野等関係各界の専門家・有識者等の委員による医薬品販売制度改正検討部会(以下「検討部会」という。)を設置した(なお,郵便等販売を行う事業者やその関係者は委員に加わっておらず,検討部会における意見陳述等の機会もなかった。)。検討部会は,平成17年12月,旧薬事法は医薬品の販売に際し薬剤師等を店舗に配置することにより情報提供を行うことを求めているが,現実には薬剤師等が不在であったり情報提供が必ずしも十分に行われていない実態があるなどとした上, セルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち,軽度な身体の不調は自分で手当てをすること)を支援する観点から,安全性の確保を前提とし,利便性にも配慮しつつ,国民による医薬品の適切な選択,適正な使用に資するよう,薬局等において専門家によるリスクの程度に応じた情報提供等が行われる体制を整備することを薬事法改正の理念として掲げ, 同改正の内容として,一般用医薬品のリスクの程度に応じた情報提供等の確実な実施を担保するために購入者と専門家がその場で直接やり取りを行い得る対面販売を医薬品販売に当たっての原則とし,他方で情報通信技術の活用には慎重を期すべきであるが,第三類医薬品については一定の要件の下で郵便等販売を認めるなどとする報告書(以下「検討部会報告書」という。)を公表した。

 (4) 厚生労働省は,検討部会報告書の内容等を踏まえて旧薬事法を改正する法案を作成し,上記法案は平成18年3月に内閣から国会に提出された。上記法案の審議において,政府参考人である厚生労働省医薬食品局長は,医薬品については対面販売が重要であり,インターネット技術の進歩はめざましいものの,現時点では検討部会報告書を踏まえて医薬品販売におけるその利用には慎重な対応が必要である旨答弁した。また,参考人として出席した検討部会の部会長は,検討部会の審議の経緯及び検討部会報告書の内容を説明した上,上記法案はこれらを十分に踏まえたものであり,医薬品はその本質として副作用等のリスクを併せ持つから,適切な情報提供が伴ってこそ真に安全で有効なものとなるが,これを対面販売で行っていこうというのが今回の議論の出発点であるなどと述べた。こうした審議を経て,上記法案は,衆参両院で賛成多数により可決成立した。

 (5) 厚生労働省は,平成20年2月,新薬事法に規定された販売の体制や環境の整備を図るために必要な省令等の制定に当たって必要な事項を検討するため,薬学等の学識を有する者,都道府県の関係者及び一般用医薬品に関係する団体の代表を委員とする,医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会(以下「第一次検討会」という。)を設置した。第一次検討会は,同年7月,一般用医薬品に係る郵便等販売は,購入者の利便性やこれまでの経緯に照らして一定の範囲で認めざるを得ないが,販売時に情報提供を専門家が対面で行うことが困難であるから,販売時の情報提供に関する規定のない第三類医薬品を販売する限度で認めるのが適当であるなどとする趣旨の報告書を公表した。

 (6) 厚生労働省は,第一次検討会による上記(5)のような報告書の内容を踏まえ,薬事法施行規則等の一部を改正する省令案(以下「改正省令案」という。うち郵便等販売の規制に係る部分は,下記(7)のとおり新施行規則と基本的に同一である。)の立案作業を行った。他方,総合規制改革会議の後身として内閣府に設置されていた規制改革会議は,平成20年11月,改正省令案につき,新薬事法には郵便等販売を禁止する明示的な規定はなく,郵便等販売が店頭での販売よりも安全性に劣ることも実証されておらず,消費者の利便性を阻害することになるなどの理由から,郵便等販売の規制に係る部分を全て撤回すべきである旨の見解を示した。なお,厚生労働省が改正省令案につき行政手続法39条1項の規定による意見公募手続を実施したところ,郵便等販売に関する意見2353件のうち2303件は,郵便等販売を第三類医薬品以外の医薬品についても認めるべきであるという趣旨のものであった。

 (7) 改正省令案に基づき,薬事法施行規則等の一部を改正する省令(平成21年厚生労働省令第10号)が平成21年2月6日に制定・公布され,一部の規定を除き同年6月1日から施行するとされた。他方,厚生労働大臣の指示により,同年2月13日,新制度の下で国民が医薬品を適切に選択し,かつ,適正に使用することができる環境作りのために国民的議論を行うことを目的として,被上告人X1の代表者を含む関係各界の専門家・有識者等を構成員とする,医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会の設置が決定された。同検討会における検討は同年5月まで続けられたが,上記省令の維持を主張する趣旨の意見と上記省令中の郵便等販売に係る規制の緩和を求める趣旨の意見とが対立し,議論は収束しなかった。厚生労働省は,同月,上記省令の附則部分に離島居住者に対する第二類医薬品に係る郵便等販売を一定期間に限り認めるなどの経過措置を追加する等の省令案の作成作業を行い,同年6月1日,同経過措置等に係る部分(平成21年厚生労働省令第114号)を含む新施行規則が施行された。

 

薬事法が医薬品の製造,販売等について各種の規制を設けているのは,医薬品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから,医薬品の安全性を確保し,不良医薬品による国民の生命,健康に対する侵害を防止するためである(最高裁平成元年(オ)第1260号同7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁参照)。このような規制の具体化に当たっては,医薬品の安全性や有用性に関する厚生労働大臣の医学的ないし薬学的知見に相当程度依拠する必要があるところである。なお,上記事実関係等からは,新薬事法の立案に当たった厚生労働省内では,医薬品の販売及び授与を対面によって行うべきであり,郵便等販売については慎重な対応が必要であるとの意見で一致していたことがうかがわれる。

 そこで検討するに,上記事実関係等によれば,新薬事法成立の前後を通じてインターネットを通じた郵便等販売に対する需要は現実に相当程度存在していた上,郵便等販売を広範に制限することに反対する意見は一般の消費者のみならず専門家・有識者等の間にも少なからず見られ,また,政府部内においてすら,一般用医薬品の販売又は授与の方法として安全面で郵便等販売が対面販売より劣るとの知見は確立されておらず,薬剤師が配置されていない事実に直接起因する一般用医薬品の副作用等による事故も報告されていないとの認識を前提に,消費者の利便性の見地からも,一般用医薬品の販売又は授与の方法を店舗における対面によるものに限定すべき理由には乏しいとの趣旨の見解が根強く存在していたものといえる。しかも,憲法22条1項による保障は,狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由の保障をも包含しているものと解されるところ(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照),旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は,郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである。これらの事情の下で,厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が,これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり,その委任の範囲を逸脱したものではないというためには,立法過程における議論をもしんしゃくした上で,新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て,そこから,郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が,上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要するものというべきである。

 しかるところ,新施行規則による規制は,前記2(1)のとおり一般用医薬品の過半を占める第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する内容のものである。これに対し,新薬事法36条の5及び36条の6は,いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売,授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより,その必要性等について明示的に触れているわけでもなく,医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も,郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。また,新薬事法の他の規定中にも,店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか,郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない。なお,検討部会における議論及びその成果である検討部会報告書並びにこれらを踏まえた新薬事法に係る法案の国会審議等において,郵便等販売の安全性に懐疑的な意見が多く出されたのは上記事実関係等のとおりであるが,それにもかかわらず郵便等販売に対する新薬事法の立場は上記のように不分明であり,その理由が立法過程での議論を含む上記事実関係等からも全くうかがわれないことからすれば,そもそも国会が新薬事法を可決するに際して第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を禁止すべきであるとの意思を有していたとはいい難い。そうすると,新薬事法の授権の趣旨が,第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして,上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきである。

 したがって,新施行規則のうち,店舗販売業者に対し,一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について, 当該店舗において対面で販売させ又は授与させなければならない(159条の14第1項,2項本文)ものとし, 当該店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければならない(159条の15第1項1号,159条の17第1号,2号)ものとし,郵便等販売をしてはならない(142条,15条の4第1項1号)ものとした各規定は,いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において,新薬事法の趣旨に適合するものではなく,新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。

 

以上によれば,新施行規則の上記各規定にかかわらず第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認を求める被上告人らの請求を認容した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹内行夫 裁判官 須藤正彦 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信)


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