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最判平25.1.25

最判平25.1.25

平成22(行ヒ)42 政務調査費返還命令処分取消請求事件 平成250125日 第二小法廷 判決 その他

 

東京高等裁判所 平成21(行コ)2 平成210929

 

裁判要旨

  区議会議員が提起した住民訴訟の控訴の提起に係る手数料の印紙代等に充てた政務調査費の支出が,使途基準の定める調査研究費又は他の項目に該当せず,使途基準に適合しないとされた事例

 2 区議会議員が提起した住民訴訟の証拠等にするとして情報公開請求により区長から開示を受けた録音テープの反訳費用及び当該住民訴訟の尋問期日における関係者の証言等の反訳費用に充てた政務調査費の支出が,使途基準の定める資料作成費又は広報費に該当するとみることができ,使途基準に適合しないとはいえないとされた事例

 

主 文

  原判決中,目黒区長が被上告人に対し平成19年5月1日付けでした平成17年度分の政務調査費の一部の返還を命ずる処分のうち10万7375円を超える金員の返還を命ずる部分の取消請求に係る部分を破棄する。

   前項の破棄部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

  上告人のその余の上告を棄却する。

  前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

 

理 由

 上告代理人河合由紀男ほかの上告受理申立て理由について

本件は,目黒区議会議員である被上告人が,地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下「法」という。)100条13項の規定に基づく条例である目黒区政務調査費の交付に関する条例(平成13年目黒区条例第5号。平成18年目黒区条例第62号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)の規定により平成17年度に交付を受けた政務調査費から被上告人が提起した住民訴訟に関する費用を支出したことにつき,目黒区長から,目黒区政務調査費の交付に関する条例(平成19年目黒区条例第22号による改正前のもの)14条に基づき上記支出の額に相当する金員の返還を命ずる処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,本件処分は違法であるとして,その取消しを求める事案である。

 

原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

 (1) 法100条13項は,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができ,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は条例で定めなければならないと定めており,この法の定めを受けて,本件条例10条は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,当該政務調査費を別に定める使途基準に従って使用しなければならないと定めている。この条例の定めを受けて,目黒区政務調査費の交付に関する規程(平成13年目黒区議会告示第1号。平成18年目黒区議会告示第1号による改正前のもの。)5条及び別表により定められた政務調査費使途基準(以下「本件使途基準」という。)は,調査研究費,研修費,会議費,資料作成費,資料購入費,広報費,事務所費,事務費及び人件費の9つの項目を挙げてその内容を定めている。そして,本件使途基準は,調査研究費の内容について「会派又は議員が行う目黒区の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費」(調査委託費,交通費,宿泊費等)である旨,資料作成費の内容について「会派又は議員が議会審議に必要な資料を作成するために要する経費」(印刷・製本代,原稿料等)である旨,広報費の内容について「会派又は議員が行う議会活動及び目黒区政に関する政策等の広報活動に要する経費」(広報紙・報告書等印刷費,送料,交通費等)である旨を定めている(括弧内はいずれも例示とされている。)

 (2) 上告人は,庁舎移転に伴う本庁舎跡地等(以下「本件跡地等」という。)の売却に当たり,売却先の選定については,公募提案方式を採用して応募者が提案する本件跡地等に係る利用計画や購入希望価格等を総合的に審査した上で決定することとし,そのような審査を行う機関として,目黒区本庁舎跡地等土地利用計画審査委員会(以下「本件委員会」という。)を設置した。本件委員会は,提案に係る購入希望価格が応募者中の最高額ではなかった業者による提案の評価順位を1位とする旨を決定し,上告人は,当該業者に対し,本件跡地等を売却した。

   被上告人は,上告人が上記業者に本件跡地等を売却したことは違法であり,これにより上告人に上記提案に係る購入希望価格のうちの最高額と実際の売却価格との差額相当額の損害が生じたなどと主張して,平成15年6月18日付けで,上告人の執行機関を被告として,当時の目黒区長らに対して上記差額相当額の損害賠償請求をするよう求める住民訴訟(以下「別件住民訴訟」という。)を東京地方裁判所に提起した。

 (3) 目黒区長は,平成17年4月1日付けで,目黒区議会議員である被上告人に対して平成17年分の政務調査費を交付すること及びその交付額を決定し,その後,2回に分けて,合計204万円を交付した。

 (4) 被上告人は,目黒区議会議長に対し,平成18年4月24日,平成17年分の政務調査費について収入総額が204万円,支出総額が205万0284円,残額が0円である旨を記載した収支報告書(本件条例11条1項)を提出した。同報告書には,調査研究費の内訳として,「住民訴訟テープ反訳」として3万1775円,「住民訴訟証人尋問速記反訳」として7万5600円,「住民訴訟控訴印紙代及高裁提出用切手」として2万8350円などと記載されていた(以下,これらの支出を順に「本件支出1」,「本件支出2」及び「本件支出3」といい,これらを併せて「本件各支出」という。)

 (5) 本件支出1は,被上告人が,目黒区情報公開条例(平成12年目黒区条例第58号)に基づき,本件跡地等の売却先の選定に関する本件委員会の審議の内容につき別件住民訴訟の証拠及び参考にするとして目黒区長に対し開示を請求し,目黒区長から開示を受けた本件委員会の議事の録音テープにつき,反訳業者に反訳及び複製を委託した際,その反訳及び複製の費用として支出したものである。

   本件支出2は,被上告人が,別件住民訴訟の尋問期日における本件跡地等の売却先の選定に関する目黒区職員の証言及び被上告人の供述につき,裁判所の作成する尋問調書とは別に,その証言及び供述の内容を反訳した速記録の作成を速記業者に委託した際,その反訳の費用として支出したものである。

   本件支出3は,別件住民訴訟につき,東京地方裁判所が被上告人の訴えの一部を却下し,その余の訴えに係る請求を棄却する旨の判決をしたことから,被上告人が,同判決を不服として控訴した際,その控訴提起手数料及び予納すべき送達費用に充てるための収入印紙及び郵便切手の購入の費用として支出したものである。

 (6) 被上告人は,自身のホームページ等を開設し,また,政務調査費を用いて作成した自身の広報紙を年1回約5万部発行して目黒区民等に配布しているところ,上記ホームページ等及び広報紙には,目黒区政の問題点に関する被上告人の意見,被上告人の目黒区議会における活動の様子等や,別件住民訴訟その他の被上告人が追行している住民訴訟等の詳細な経緯,経過,結果等が掲載されており,上記ホームページ等には,本件支出1に係る本件委員会の議事の録音テープの反訳文並びに本件支出2に係る別件住民訴訟における目黒区職員の証言及び被上告人の供述の反訳文も掲載されている。

 また,被上告人は,目黒区議会での一般質問において,本件跡地等の売却に関する質問をするなどしている。

 (7) 目黒区監査委員は,平成19年4月27日,上告人の住民による住民監査請求に基づき,本件各支出はいずれも住民訴訟のためにされたものであり,政務調査費の使途として認められないとして,目黒区長に対し,被上告人に対して本件各支出の合計額である13万5725円を不当利得として返還請求するよう勧告した。

 目黒区長は,上記の監査結果を受けて,被上告人に対し,平成19年5月1日付け「平成17年度分政務調査費の返還命令」と題する書面に,返還理由を「平成19年4月27日付けで目黒区監査委員から違法・不当な支出であるとされたため」と記載して,被上告人に対する平成17年度分の政務調査費のうち13万5725円の返還を命ずる本件処分をした。

 

原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件各支出が違法又は不当であるとしてされた本件処分は違法であり,取り消されるべきものであるとした。

 住民訴訟の提起及び追行は,議員による議会活動の基礎となる調査研究活動と趣旨及び目的において重なり合う面があり,その提起及び追行並びにこれによって得た情報等に基づく様々な活動は,区政の調査,研究及び追及のための重要かつ有効な手段となるほか,その提起を契機として区政の問題点につき議会での議論が喚起されることなどによって,各種の制度の改善等につながることもあり得る。これらによれば,本件各支出は,上告人の事務及び地方行財政に関する調査研究に要する経費として,いずれも本件使途基準の調査研究費に該当するものであり,違法又は不当な支出であるということはできない。

 

しかしながら,原審の上記判断のうち,本件支出1及び本件支出2に係る部分は結論において是認することができるが,本件支出3に係る部分は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 法100条13項は,政務調査費の交付につき,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができるものと定めており,その趣旨は,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化したものであると解される。そうすると,本件使途基準が調査研究費の内容として定める「会派又は議員が行う目黒区の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費」とは,議員の議会活動の基礎となる調査研究及び調査の委託に要する経費をいうものであり,議員としての議会活動を離れた活動に関する経費ないし当該行為の客観的な目的や性質に照らして議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められない行為に関する経費は,これに該当しないものというべきである。

 (2) しかるところ,住民訴訟の提起(上訴の提起を含む。以下同じ。)及び追行は,地方議会の制度とは別個独立の自己完結的な争訟制度を通じて地方公共団体の執行機関又は職員の財務会計上の違法な行為又は怠る事実を是正し又は予防することを目的とし,裁判所に対し法令と証拠に基づく法的判断を求めて請求の実現を図り攻撃防御を行う司法手続上の争訟活動を内容とする行為であり,客観的にみて,議会の審議能力の強化を図るために議会の議員活動の基礎となるものとして情報や資料を収集する調査や研究の活動とは,本来の目的や性質を異にするものである。住民訴訟の結果として違法な行為等の是正がされることがあるとしても,その是正は議会を通じて行われるものではないから,このことをもって,住民訴訟の提起及び追行それ自体と上記のような議員の議会活動の基礎となる調査研究活動とが客観的にみて本来の目的や性質を同じくするものであるということはできない。

 以上によれば,住民訴訟の提起及び追行は,その客観的な目的や性質に照らして,それ自体としては,議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められないものというべきである。

 なお,原審は,住民訴訟の提起及び追行につき,議員の議会活動の基礎となる調査研究活動と趣旨及び目的において重なり合う面があり,その提起及び追行並びにこれによって得た情報等に基づく活動が区政の調査,研究及び追及をするための有効かつ重要な手段となるほか,その提起を契機として区政の問題点につき議会での議論が喚起されるなどというが,住民訴訟の提起及び追行が,客観的にみて,議員の議会活動の基礎となる調査研究活動とは本来の目的や性質を異にするものであることは上記のとおりであり,また,それによって得られた情報等が議員の議会活動のために用いられ,あるいはそれを契機として当該争訟の内容が議会での議論の対象となることがあり得るとしても,これらは単に結果として生じ得る事実上の影響にすぎず,このような事実上の影響が結果的に生じ得ることをもって直ちに,住民訴訟の提起及び追行それ自体について議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められることになるとは解されない。

 (3) 上記(1)及び(2)において検討したところによれば,議員による住民訴訟の提起及び追行それ自体のために費用が支出された場合には,当該支出は,本件使途基準の調査研究費の支出に該当しないものというべきである。

もっとも,住民訴訟を提起し追行する議員が,当該訴訟の提起及び追行を端緒として,その過程でその結果として地方公共団体の保有する情報や資料を取得することはあり得るところ,これらの取得した情報や資料を,当該訴訟の追行とは別途に,議会活動に関して,その基礎となる調査研究又は議会審議に必要な資料の作成や議会活動の広報等に用いるために費用が支出された場合には,その費用が本件使途基準の調査研究費又は資料作成費や広報費等の他の項目に該当するとみる余地があり,当該情報や資料が住民訴訟を端緒として得られたものであることから直ちに当該支出がおよそ本件使途基準に適合しない支出であるとまではいい難い。

 (4) そこで,上記(1)ないし(3)において説示したところに照らし,本件各支出について検討する。

 本件支出3は,別件住民訴訟の提訴者である被上告人による控訴の提起に係る訴訟費用(控訴提起手数料の印紙代及び予納すべき送達費用の切手代)の支出であり,議員による住民訴訟の提起及び追行それ自体のための費用の支出であって,本件使途基準の調査研究費の支出に該当せず,本件使途基準の他の項目の支出に該当するものでもなく,本件使途基準に適合しない支出であるというべきである。

 これに対し,本件支出1は,本件跡地等の売却先の選定に関する本件委員会の議事の録音テープを文書化するための費用であり,本件支出2は,別件住民訴訟の尋問期日における本件跡地等の売却先の選定に関する関係者の証言及び供述の内容を文書化するための費用であるところ,被上告人は,目黒区議会の審議において,本件跡地等の売却について自らの主張に係る問題点を究明して議論の対象とするために本件跡地等の売却に関する質問をするなどの議会活動を行っており,これらの文書化された資料は,別件住民訴訟とは別途に,被上告人が現に行っている議員としての上記の議会活動に関して,被上告人の参加する質疑等の議会審議に必要な資料として用いることができるものであり,また,その内容が前記2(6)のとおり自身のホームページ等や広報紙に掲載され,上記の議会活動の広報に供する資料として用いられているとみることができるものである。本件支出1に係る録音テープは,被上告人が目黒区長に対し別件住民訴訟の証拠及び参考にするとしてその開示を請求し,これを受けて開示されたものではあるものの,そのことをもって直ちに,これを文書化した資料が上記のとおり別件住民訴訟とは別途に議員としての議会活動のために用いられるものとなって,その文書化の費用が本件使途基準のいずれかの項目に該当する余地のあることが否定されるというものではない。また,本件支出2に係る証言及び供述の内容も,それ自体は別件住民訴訟を端緒として当該訴訟の過程でその結果として得られたものではあるものの,そのことをもって直ちに,当該訴訟において裁判所が作成する尋問調書とは別に上記証言及び供述を文書化した資料が上記のとおり当該訴訟とは別途に議員としての議会活動のために用いられるものとなって,その文書化の費用が本件使途基準のいずれかの項目に該当する余地のあることが否定されるというものではない。なお,上告人の政務調査費の交付に係る条例又は規則等の定めにおいて,本件使途基準の項目を異にする支出につき交付の手続等が異なるなどの事情はうかがわれない。

 このような本件の事情の下においては,本件支出1及び本件支出2は,いずれも,被上告人の議員としての議会活動に関して,被上告人の参加する質疑等の議会審議の参考に供する資料又はその議会活動の広報に供する資料を作成するために支出された費用として,本件使途基準の資料作成費又は広報費の項目に該当する支出であるとみることができ,本件使途基準に適合しない支出であるということはできない。

 したがって,本件処分のうち,本件使途基準に該当しない支出である本件支出3に係る政務調査費の返還を命ずる部分については,実体上の違法事由は存しないものの,本件支出1及び本件支出2に係る政務調査費の返還を命ずる部分は,本件使途基準に該当する支出の返還を命じたものとみることができ,実体上の違法事由があるものといわざるを得ない。

 

(1) 以上によれば,本件処分のうち本件支出3に係る政務調査費の返還を命ずる部分につき,実体上の違法があるとして,同部分を取り消すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,本件処分のうち本件支出1及び本件支出2の合計金額(10万7375円)を超える部分の取消請求に係る部分は,破棄を免れない。そして,被上告人は,本件処分の手続上の違法事由として,本件処分の理由提示(目黒区行政手続条例(平成8年目黒区条例第1号)14条)の不備も主張しているところ,この点に関して更に審理を尽くさせるため,上記破棄部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 (2) 他方,以上によれば,本件処分のうち本件支出1及び本件支出2に係る政務調査費の返還を命ずる部分につき,実体上の違法があるとして,同部分を取り消すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。この点に関する論旨は採用することができない。したがって,上記破棄部分以外の部分に係る上告は,これを棄却することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 須藤正彦 裁判官 竹内行夫 裁判官 千葉勝美 裁判官 小貫芳信)

 

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