最決平25.2.20


最決平25.2.20
平成23()1789 住居侵入,窃盗,現住建造物等放火,窃盗未遂被告事件 平成250220日 第一小法廷 決定 棄却

 

広島高等裁判所 岡山支部 平成23()13 平成230914

 

裁判要旨

 前科に係る犯罪事実及び前科以外の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることの可否

 前科に係る犯罪事実及び前科以外の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることが許されないとされた事例

 

主 文

  本件上告を棄却する。

  当審における未決勾留日数中400日を本刑に算入する。

 

理 由

 弁護人山田基幸の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお,所論に鑑み,職権で判断する。

原判決は,事実誤認の控訴趣意を排斥するに当たり,被告人の前科(昭和47年9月から同48年9月までの間の窃盗13件,同未遂1件,現住建造物等放火1件,同未遂2件等の罪により懲役6年に処せられた前科及び平成2年3月から同年12月までの間の住居侵入,窃盗10件,住居侵入,窃盗,現住建造物等放火2件,住居侵入未遂1件の罪により懲役9年に処せられた前科)に係る犯罪事実並びに被告人が自認している第1審判決判示第1ないし第9及び第19の住居侵入,窃盗の各事実等から,被告人には,

 ア 住居侵入,窃盗の動機について,いわゆる色情盗という特殊な性癖が,

 イ 住居侵入,窃盗の手口及び態様について,

  ①侵入先を決めるに当たって下見をするなど何らかの方法により女性の居住者がいるという情報を得る,

  ②主な目的は女性用の物を入手することにあり,それ以外の金品を盗むことは付随的な目的である,

  ③家人の留守中に窓ガラスを割るなどして侵入するという特徴が,

 ウ 現住建造物等放火について,女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する独特の複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりするという極めて特異な犯罪傾向がそれぞれ認められるとした。

そして,上記アないしウの特徴等が,第1審判決判示第10ないし第15,第18及び第20の住居侵入,窃盗又は同未遂,現住建造物等放火の各事実に一致するとし,このことが上記各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとなるとした。

 

しかし,上記原判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合は,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,その特徴が証明の対象である犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって,初めて証拠として採用できるところ(最高裁平成23年(あ)第670号同

24年9月7日第二小法廷判決[釧路事件]・裁判所時報第1563号6頁参照),このことは,前科以外の被告人の他の犯罪事実の証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合にも同様に当てはまると解すべきである。そうすると,前科に係る犯罪事実や被告人の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることは,これらの犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,その特徴が証明対象の犯罪事実と相当程度類似していない限りは,被告人に対してこれらの犯罪事実と同種の犯罪を行う犯罪性向があるという実証的根拠に乏しい人格評価を加え,これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることに等しく,許されないというべきである。

 (2) これを本件についてみるに,原判決指摘アの色情盗という性癖はさほど特殊なものとはいえないし,同イの,あらかじめ下見をするなどして侵入先の情報を得る,女性用の物の入手を主な目的とする,留守宅に窓ガラスを割るなどして侵入するという手口及び態様も,同様にさほど特殊なものではなく,これらは,単独ではもちろん,総合しても顕著な特徴とはいえないから,犯人が被告人であることの間接事実とすることは許されないというべきである。また,原判決指摘ウの「特異な犯罪傾向」については,原判決のいう「女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりする」という行動傾向は,前科に係る犯罪事実等に照らしても曖昧なものであり,「特異な犯罪傾向」ということは困難である上,そもそも,このような犯罪性向を犯人が被告人であることの間接事実とすることは,被告人に対して実証的根拠の乏しい人格的評価を加え,これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることにほかならず(前掲最高裁平成24年9月7日判決参照),許されないというべきである。

 (3) したがって,原判決が,上記前科に係る犯罪事実並びに第1審判決判示第1ないし第9及び第19の各事実にみられる上記アないしウの特徴が第1審判決判示第10ないし第15,第18及び第20の各事実に一致することを上記各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとしたことは違法であり,原判決には法令違反がある。

 

しかしながら,上記間接事実を除外しても,その余の証拠によれば,第1審判決の各犯罪事実の認定について事実誤認はないとした原判断は是認することができるから,原判決の上記法令違反は,判決に影響を及ぼすものではない。

 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官金築誠志の補足意見がある。

 

 裁判官金築誠志補足意見は,次のとおりである。

 私は,原判決が,被告人の前科に係る犯罪事実並びに第1審判決判示第1ないし第9及び第19の各事実をもって,同第10ないし第15,第18及び第20の各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとしたことを違法であるとする本決定に賛成するものであるが,本決定が,前科以外の被告人の他の犯罪事実の証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合にも,法廷意見が引用する平成24年9月7日第二小法廷判決の法理が同様に当てはまるとしていることなどについて,本件事案に即してみるとき,留意すべき点があるように思うので,私見を付加しておくこととしたい。

本件起訴事実は,平成16年8月から同17年8月までの間に,岡山市内において,合計20件の住居侵入・窃盗・同未遂・現住建造物等放火の犯行に及んだというものであるが,このうち,第1審判決判示第1ないし第9及び第19の住居侵入・窃盗については,被告人も認めており,認定上特に問題はない。そこで,原判決は,被告人の認める上記各事実と,法廷意見記載の前科から,被告人の犯行の動機,手口等を認定し,第10ないし第15,第18及び第20の各事実の犯人が被告人であることの間接事実の一つとしているのであるが,色情盗という性癖,犯行の手口・態様が,さほど特殊なものとはいえないことは,法廷意見の述べるとおりである。また,原判決は,前科等から,被告人は,「女性用の物を窃取した際に,被告人本人にも十分に説明できないような,女性に対する独特の複雑な感情を抱いて,室内に火を放ったり石油を撒いたりするという極めて特異な犯罪傾向」があるとし,これも上記犯人性の間接事実としている。しかし,昭和48年の3件の現住建造物等放火では,目的とする盗みができなかったことに立腹したという上記とは全く異なる動機が認定されており,平成2年の2件の放火については,性倒錯傾向が放火の動機に幾分か関係を持つという原判示に通じる認定がされているが,同年に被告人が行った住居侵入・窃盗で女性用下着を窃取したにもかかわらず,放火に至っていないものが他に6件ある。したがって,被告人に上記のような犯罪傾向があると,軽々に断定することはできないと考える。さらに,窃取した物に女性用の物が含まれているからといって,その後に行われた放火の動機が,上記のようなものであると直ちに推認することはできないのであって(ちなみに,認めている第16及び第17の2件の放火について,被告人は,その動機を「指紋を消すため」と供述している。),第18において灯油を撒いた動機がストーカー的な気持であった旨の検察官に対する供述があるものの,争いのある本件各放火を通じて,その動機が原判示のようなものであったと認定できるだけの証拠があることはうかがわれない(放火の犯人が被告人であることが確定された場合には,その動機が原判示のようなものであるとの逆の推認をすることは可能であろうが。)。そうすると,法廷意見の指摘する点もさることながら,上記の原判断については,そもそも,動機の共通性という,犯人性の間接事実とするための前提を欠いているように思う。

(1) このように,原判断は是認できないのであるが,上記のように,原判決は,間接事実となるべき被告人の他の犯罪事実として,現住建造物等放火の含まれる事実を挙げていないところ,本件において,被告人の他の犯罪事実が犯人性を認めるための間接事実として許容できるか否かという点で,より検討を要するのは,併合審理されている現住建造物等放火の各事実についてであると思われる。すなわち,現住建造物等放火の含まれる10件の事実のうち,第16と第17については,盗品の一部について否認しているものの,放火を含め,犯人であることを認めており,第18については,盗品の一部を除き,住居侵入・窃盗の限度では認めているので,結局,被告人が,全面的に犯人ではないとして争っているのは,第10ないし第15及び第20の7件ということになるが,このうち,第15を除く6件においては,原判決が引用する第1審判決が詳細に説示するとおり,被告人方から盗品が発見されていることなどの証拠により,住居侵入・窃盗の犯人が被告人であることは明らかである。第15について,第1審判決は,同犯行は,窓の錠付近のガラスを割って屋内に侵入して物色し,その後物色した部屋の押し入れに放火するという犯行態様が,他の事件とよく類似していることに加え,窃盗に入った家で室内に放火するとの犯罪類型は決して一般的なものとはいえず,むしろ特殊な手口であることや,後記の同種前科の存在も,犯人性を認める証拠としているところ,この判断は上記第二小法廷判決の示した証拠としての許容基準からして疑問を免れないのであるが,これを除いても,第1審判決が援用する粘着テープ等の物的証拠により,被告人を第15の住居侵入・窃盗の犯人と認めることが可能というべきである。

 残る問題は,争いのある8件の放火の犯人が被告人と認められるかどうかである。第18については,窃盗の犯行後,室内に灯油を撒いたという重要な不利益事実の承認があるが,その余の7件については,同種前科及び犯行態様の類似した多数の事実が起訴されていることを別とすれば,放火の犯行と被告人とを結び付ける証拠は,ほぼ,住居侵入・窃盗の犯行との場所的同一性と時間的近接性のみといってよい。

 (2) 前科に関し,原判決が放火の動機として認定するところが間接事実となり得ないものであることについては,前記のとおりであるが,住居侵入・窃盗の際に侵入先の室内において放火を行ったという同種前科の存在自体を,本件放火の犯人が被告人であることの間接事実とすることも,上記第二小法廷判決の法理に照らし,許されないと解すべきである。前科は,被告人の人格評価を低下させ,ひいて犯人性の認定に影響を及ぼすおそれの否定できない証拠であり,同種前科であれば特にそのおそれは強い。犯行の手口,態様等に,顕著な特徴がある場合でなければ,犯人性に関する証拠として許容されるべきでなく,ただ単に,前に同じような犯罪を犯した者であるから,今回の件も犯人ではないかとの推論をすることは,許されるべきではない。窃盗犯人が犯行場所に放火するという犯罪類型は,しばしば見られるものではないとしても,特に珍しいというほどのものではないから,犯人の特定に強く結び付く程度の顕著な特徴とはいえない。

 (3) それでは,本件において併合審理された類似事実についても,同様に考えるべきであろうか。本件起訴に係る10件の現住建造物等放火は,約4か月の短期間に連続的に犯されたものであるが,いずれの犯行においても,放火が実行されたと推認される時以前,最大限約10時間の幅の時間内に,被告人が,放火された住居に侵入し,放火された室内で金品を盗みあるいは盗もうとしたという事実が認められる。このうち2件は,放火についても被告人は自認しており,上記時間の幅が10時間の1件については,室内に灯油を撒いたことを認めている。このような事実関係において,仮に,争いのある放火が,被告人の関与なしに他の者によって犯されたとするならば,それは極めて確率の低い偶然の事態が発生したことを承認することになろう。本件のような事案について,各放火事件の犯人性は,あくまで,それぞれの事件に関する証拠のみで別個独立に認定すべきであるとすることは,不自然であり,類似する多数の犯行を総合的に評価することは許されるべきであろう。

 上記10件の放火の中には,上記の時間の幅が1時間20分,2時間といった時間的近接性の極めて高い事件もあり,こうした事件については,その事実だけで被告人が放火の犯人であることを推認することに,あまり疑問はないであろう。しかし,どの程度の時間の幅まで,近接性の原理のみで犯人性を推認できるかは,微妙な問題であって,その際に,類似事実の存在は,一つの補強的な証拠になり得ると考えられる。本件のような事案においては,そうした認定の当否を審理することが必要であり,証拠として許容される場合があるのであって,それが,併合審理をする意義の一つであると考える。

 (4) もっとも,本件においては,上記のような総合的認定という観点のほかに,被告人の認めている2件の住居侵入・窃盗・現住建造物等放火を,他の8件の住居侵入・窃盗・現住建造物等放火の犯人が被告人であることの間接事実とすることができるのかという観点もある。この観点については,他の類似犯罪事実をもって被告人の犯罪傾向を認定し,これを犯人性の間接証拠とするという点で,上記第二小法廷判決が戒める人格的評価に基づく推論という要素を含んでいることは否定できない。したがって,基本的には,同判決が示した法理に従うべきであろうが,この法理が,自然的関連性のある証拠の使用を,不当な予断・偏見のおそれや合理的な根拠に乏しい認定に陥る危険を防止する見地から,政策的考慮に基づいて制限するものであることに鑑みれば,「顕著な特徴」という例外の要件について,事案により,ある程度の幅をもって考えることは,必ずしも否定されないのではないだろうか。

 上記第二小法廷の事案が,窃盗の件数は31件の多数に上るのに,放火は1件にとどまるのに対し,本件は,20件のうちの半数において放火が起訴され,しかも約4か月という短期間に多数の類似犯罪事実が連続的に犯されたというものであって,事案に重要な差異がある。また,前述のように,本件においては,被告人が上記多数の住居侵入・窃盗の犯人であることは,他の証拠によって立証されており,その犯人と放火犯人との同一性という,限局された範囲における推認であることも,考慮すべき点といえよう。さらに,併合審理される類似事実については,前科についてみられる,その存在自体で人格的評価を低下させる危険性や,同判決が指摘する争点拡散のおそれは,考え難い。これらの点を総合的に考慮すれば,本件において「顕著な特徴」という要件が満たされていると解する余地もあるのではないかと思う。

いずれにしても,本決定は,あくまで原判決における証拠の使用方法を違法と判断したものであって,上記2に述べた点についてまで判断したものではない。事案の内容から,本決定の射程距離に疑義が生じるおそれなきにしもあらずと危惧し,念のため付言する次第である。

(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志補足意見 裁判官 横田尤孝 裁判官白木 勇 裁判官 山浦善樹)

 

 

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